9割の女性が何らかの不調を経験すると言われているのが更年期。そこで、予防医療コンサルタントの細川モモさんにASK。日本人女性2万人のデータを収集し、リアルな現状を把握している細川さんならではの、食事に重点を置いたセルフケア・メソッドを公開。いわゆるプレ更年期といわれる30代後半から試す価値あり!
Text:Chihiro Horie
そもそも更年期って?
閉経の前後5年を含む10年間が更年期。日本人女性の閉経の中央値は約50歳なので、個人差はあるものの、多くの日本人女性の場合45歳から55歳くらいが更年期と言える。この時期は卵巣機能が衰え、女性ホルモンの分泌量が減少するのに伴って心身にさまざまな不調が起こりやすくなる。ほてりや不眠、鬱をはじめ、その症状は100種以上とも言われるが、医療に頼るほど不調をきたす人は10%に満たない(※)。また更年期の症状が重くなる背景には、胃腸の老化やそれまでの食生活も大きく影響を及ぼしていると考えられる。卵巣機能が衰え始める30代半ばから、生活習慣を見直すことが第一の対策に。
※出典:J. Jpn. Acad. Mid., Vol. 14, No. 1, pp. 45-53, 200
30代後半から積極的に取り入れるべきセルフケアとは? 14の更年期対策TIPSをご紹介!
【TIPS1】適切なカロリーを摂取する
女性ホルモンをキープするために理想的な食生活の条件は、1日につき、除脂肪体重1キロあたり35kcalを摂取すること。さらに、活動量に応じたエネルギー補給が必要なので、平均的な体格の日本人女性なら、毎日2000kcal前後の摂取が必要と考えられる。朝ごはんを抜くと必要なカロリーを満たすことが難しくなるうえ、寝ている間に下がった体温を上昇させ、“巡りのいい”体を維持することができなくなって、更年期の諸症状を助長する引き金にも。朝からのカロリー補給は特に必須と心得て。
【TIPS2】エストロゲン不足をエクオールでカバーする
100以上にものぼる更年期の不調の原因は、女性ホルモン・エストロゲンの分泌量の急降下。エストロゲンと似た働きをするエクオールを補うことがセルフケアの1つに。エクオールは腸内細菌によって大豆イソフラボンが代謝されることで産生される成分。ただし、536名の日本人女性を対象に行なった調査の結果、大豆イソフラボンからエクオールをつくり出せる人は約4割(※)ほど! つくり出せない人はサプリメントで補うのも手。
※出典: 2017 三菱地所株式会社・一般社団法人ラブテリ All Rights Reserved.
【TIPS3】食事の“炎症レベル”を把握する
更年期の第一歩は卵巣のエイジング。エイジングを早める“炎症レベル”の高い食生活を回避することが、度を越して早く更年期がやってこないようにするための対策になることが研究(※1)で示唆されている(閉経後は多くの疾病のリスクが急上昇するため、更年期を早める食生活は避けるべき!)。
要注意したい食べ物の代表格は、リノール酸を多く含むオイル(コーン油・ベニバナ油など)やマーガリンなどの飽和脂肪酸。さらに、精製された炭水化物(白いパン・シリアル・コーンフレークなど)と加工肉(ベーコン・ハムなど)にも、炎症物質を燃え上がらせる着火剤のような働きが。なお、食事から多く炎症物質を摂っていると睡眠の質が低下したり、子宮内膜症に影響を及ぼす可能性があることがわかってきた(※2)。さらに、脳で起こる慢性的な炎症が更年期のうつに関わっていることも明らかに。
※1 出典:Dunneram, Yashvee, et al. "Dietary intake and age at natural menopause: results from the UK Women’s Cohort Study." J Epidemiol Community Health (2018).
※2 出典:Front Nutr. 2023; 10: 1077915. © 2023 Liu, Maharjan, Wang, Zhang, Zhang, Xu, Geng and Miao.
【TIPS4】炭水化物を精製レベルの低いものにシフトする
前述のとおり、精製された炭水化物は諸悪の根源。AGE(終末糖化産物)という老化促進物質になって卵巣機能を低下させたり、食事の炎症レベルを高めて子宮内膜症を悪化させる可能性がある。イギリスの40~65歳の3万人の女性を対象にした調査では、若い頃から精製された炭水化物を多く食べている人は閉経時期が早かったというデータも。
ただし、女性ホルモンの維持に必要なカロリーを補うという観点からも、三大栄養素のひとつである炭水化物そのものをセーブするのは考えもの。ハーバード大学の研究でも精製度が低い炭水化物まで控える女性は妊娠率が低下する可能性があることが報告されている。いつものパンや白米を発芽玄米やグラノーラ、ライ麦パンなどに切り替える工夫を。
【TIPS5】タンパク質の中でも青魚を積極的に食べる
毎食、片方の手のひら一盛り分のタンパク質補給は必須! 中でも、エイジングを助長する炎症を抑えるために、積極的にチャージしたいのは、不飽和脂肪酸が豊富なDHA・EPAを含む青魚(イワシ。サンマ、サバなど)。更年期を迎えると、エストロゲンの減少に伴って、コレステロール値が上がり、太りやすくなったり動脈硬化のリスクが高まるが、DHA・EPAには体脂肪を減らし、血液をサラサラにして動脈硬化を予防する効果も期待できる。また、脳や子宮を炎症から守り、うつや子宮内膜症を予防する、という観点からも欠かせない存在。
【TIPS6】酪酸菌を摂って腸内環境をバックアップ
更年期には女性ホルモンの分泌量が減ることで自律神経が乱れ、さまざまな不快症状を招くが、実は腸内環境も自律神経と密接に関わっている。つまり腸活が、自律神経の乱れを軽減する一手に。そこで注目したいのは酪酸菌。腸の中の酸素量を減らすことで、善玉菌は育ちやすく、悪玉菌は育ちにくい環境へと整える。そもそも酪酸菌は腸内細菌が食物繊維を分解する際に作られるので、サプリメントで補給するほか、海藻類などから食物繊維を多く取るのも有効。
【TIPS7】タバコ・アルコール・カフェインを控える
女性ホルモンの低下によって自律神経が乱れると、胃腸にも不具合を生じやすくなる。エイジングによる胃酸の分泌量の減少も影響して、栄養を吸収する力が衰えるほか、便秘・下痢など腸の不調を訴える人も増える。熱々の食事やタバコ、アルコール、カフェインは、胃腸を傷つける要因になるので控えるべき。
【TIPS8】ファイトケミカルの力を借りて抗酸化力をキープ
ファイトケミカルを豊富に含む野菜(アボカド・人参・かぼちゃ・ブロッコリーなど)や果物にも、エイジングを加速させる炎症老化を抑える効果が望める。ただし、ファイトケミカルは摂取後3時間くらいしか体内に留めておけないため、血中濃度を保つためには3度の食事以外にドリンクも組み合わせるのがおすすめ。豆乳やアーモンドミルク、緑茶、ルイボスティー、ココアに注目を。また、栄養素が凝縮されたドライフルーツやナッツ類を間食にするのもGOOD。
【TIPS9】マグネシウム浴でコリも不眠も解消
不快な全身のこわばりや肩こりの解消、冷え対策には、全身の血流を促せる入浴がマスト。夜に体温を上げることはその後の入眠をスムーズにする作用にもつながるため、寝つきが悪くなりがちな更年期世代の女性こそ習慣にすべき。その際、湯船に投入したいのはマグネシウムを高濃度で含んでいるエプソムソルトかにがり。マグネシウムには筋肉や臓器を弛緩させる働きがあり、経皮吸収することでコリの緩和効果が期待できる。
【TIPS10】メンタル不調の解消にはリズム運動を取り入れる
そもそも女性は、男性に比べて約52%もハッピーホルモン・セロトニンを作り出す機能が弱いことがわかっている。特にPMSや更年期の症状としてイライラが強い人は、セロトニンを作り出す能力が低い可能性が。そこでトライしてみたいのは、テンポよく行うウォーキングなど、一定のリズムを刻む運動。15分~20分程度の継続で、セロトニンの分泌促進効果が望める。運動のほか、ガムを噛み続けるのも有効。ただし30分を超えると逆にセロトニンの減少を招くので、短時間にしておくのがキー。
【TIPS11】日光を浴びてビタミンDをたっぷり作る
更年期で情緒不安定になる人や、卵巣年齢(AMH)が実年齢より高い人は、ビタミンD欠乏に陥っている可能性も。ビタミンDにはメンタルの安定や卵巣の健康を保つ働きが望める。なお、体内で生成されるビタミンDは食事以外に紫外線に当たることによって生成され、生成の割合は紫外線由来の方が大きいので、太陽の光を浴びる習慣を持ちたい(前出のセロトニンの分泌にも有効!)。どれくらい紫外線に当たれば推奨量のビタミンDを生成できるかは、季節や地域、時間によって異なるので、国立環境研究所のホームページで確認を。
【TIP12】メラトニンを減らさない生活にシフトする
不眠や寝つきの悪さも更年期に起こりやすい症状の1つ。生体リズムを調整する役割を持つホルモン・メラトニンをしっかりと分泌させることが対策に。さらにメラトニンは、あらゆる炎症から体を守る強力な抗酸化物質であることも近年、解明されている。実はこのホルモン、セロトニンが分泌されたあと、約14時間すると変化して生じる物質。つまり朝日を浴び、午前中のうちにリズム運動を行ってセロトニンをしっかりと分泌させることがブーストにつながる。また、原料となるタンパク質を朝ごはんで補給することも必須。なお、分泌の抑制につながるブルーライトの浴び過ぎや、海外製のサプリメントから安易にチャージするのは安全性が確認できていないため要注意!
【TIPS13】骨活で骨粗鬆症リスクを回避しつつ若さをキープ
女性ホルモンの分泌量が減少すると、骨量も低下し骨粗鬆症のリスクが上昇してしまう。頭蓋骨や顔など運動によって負荷がかかりにくいパーツから骨量は低下し始めることがわかっており、特に目周りや顎の骨の減少は、たるみやシワをはじめとする老け印象にも大きく関わる。対策はウォーキングやなわとびなど骨に負荷がかかる運動。また、女性ホルモンに近い働きで知られるエクオールを摂取すると、骨折率が減るというデータもある。
【TIPS14】日々の食事を和食中心に変える
脂肪代謝をコントロールするエストロゲンの減少により、更年期世代の多くの女性はそれ以前より太りやすくなる。飽和脂肪酸を多く含む洋食全般は、特に控えておきたい。ただ、女性ホルモンを一気に枯渇させないためにも1日2000キロカロリー前後の摂取は必須で、食べないダイエットは禁物! 食事を野菜や青魚中心の和食にシフトすることで、必要なカロリーは確保しつつ、太りにくい食生活に切り替えられる。また、食事を抜くと血糖値が急上昇しやすくなり太りやすくなるので、1日3回の食事もマスト。
教えてくれたのは……細川モモさん
予防医療・栄養コンサルタント。一般社団法人ラブテリ代表理事。International Nutrition Adviserの資格を取得した後、日米の専門家チームによる「ラブテリ トーキョー&ニューヨーク」を発足。女性のヘルスリテラシー向上のために大規模調査を行ない、集計データやそれに基づく考察を情報発信している。2万人の日本人女性の生理について調査した結果をまとめた著書に『生理で知っておくべきこと』(日経BP)がある。
INFO
「ラブテリ」のクラウドファンディングに注目!毎年1,590万人が更年期以降に骨粗しょう症になると言われ、産後ママの50%が低骨密度という日本の深刻な事態を受けて、細川モモさんが代表を務める一般社団法人ラブテリが、女性と子どもに骨密度測定の機会を提供するためのクラウドファウンディングを実施! 誰もが早い段階から手軽に骨密度を測定できる場を提供することで、骨粗しょう症予備軍を減らし、将来的には骨粗しょう症に起因する要介護老人の減少を目指す。リターンはグッズからセミナーまで豊富な21種類。ぜひチェックして。
『疲れと不調にサヨナラ! 体と心をラクにする 鉄分貯金』細川モモ
ちょっとした不調を招く要因の“鉄不足”は今や深刻な問題。鉄不足の何が問題なのか、放っておくとどうなるのか、また鉄分が足りているとどう体が楽になるのかを自分事として理解し、実生活に役立てられる本。更年期のケアにも通じる話が満載。