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JACKY BOEHM2022年6月、アメリカ連邦最高裁は人工妊娠中絶の権利を合憲とした「ロー対ウェイド」判決を覆す判断を示したことが大きなニュースに。今回は、移動診療所としてバスで中絶手術を行うプロジェクト『abortion delivered』の関係者に話を聞きました。
cosmopolitan

中絶の権利にまつわる議論が続くアメリカで「中絶バス」が走る理由

※本記事は2022年11月19日にCosmopolitanで掲載されました。

2022年6月、アメリカ連邦最高裁が人工妊娠中絶の権利を合憲とした「ロー対ウェイド」判決を覆す判断を示したことが、大きなニュースに。

中絶の規制は州に委ねられる形となったため、中絶が禁止されている州に住む人々の中には、合法の州まで自ら赴いて処置を受けたり、中絶の処置を受けることができないこともあると言います。

そんな状況下で、ミネソタ州発の非営利団体「Just the Pill」は、これまでにない方法で高まる中絶の需要に対応しています。それは、バスを特別な装備の積んだ移動診療所として改造し、必要な場所、そしてタイミングに合わせて赴き、中絶手術を路上で実施するというもの。バスには経験とトレーニングを積んだ医者が乗り込み、100%合法的なケアを提供しているんだそう。

本記事では、このプロジェクトに携わる関係者へのインタビューを<コスモポリタン アメリカ版>からお届けします。

※本記事は翻訳記事です。日本での人工妊娠中絶については、母体保護法が適用されています。詳しくは、日本産婦人科医会のウェブサイトなどを参照してください。

プロジェクトの立ち上げ

Just the Pillの創設者であり、今回のプロジェクト「Abortion Delivered(中絶処置デリバリー)」の責任者であるアマンダ(仮名)さんは、2022年6月にアメリカ最高裁が「ロー対ウェイド判決」を覆すよりも前に、移動診療所のアイデアを思いついたと言います。

アマンダさんは、フロリダの中絶クリニックでカウンセラーとして働いた後、ミネソタ州に移住。自分の住む地域が周りから孤立している状況を目の当たりにし、「ここでは適切な中絶処置が行き届いていない」と感じ、移動診療所があれば、車で移動して患者に会うことができると考え着いたのだそう。

このアイデアをもとに、初めは妊娠10~12週目の妊婦さんを対象に中絶薬の遠隔医療を提供する会社として、「薬だけで」という意味を持つ「Just the Pillをスタート。

しかし彼女は、中絶薬が万人にとって完璧な解決策ではないこと、一部の人やケースによっては中絶手術が最適であることを実感するように。

「私自身、不全流産により人工妊娠中絶が必要になったとき、できるだけ早くその処置が終わることを望んでいたので手術を選びました。その経験から、中絶を必要とする人ができるだけ多くの選択肢を持っているべきだと考えるようになったんです」

アイデアを実現するため、彼女は調査と資金調達からスタート。移動診療を行う他のグループと協力し、実務に関する詳細や進め方に関する情報を集めました。

見積もってみると、バスを安全で合法的な中絶クリニックに変えるためには、少なくとも8ヶ月と最低37万5千ドル(約5500万円)の予算が必要だということがわかり、非常に厳しい旅路になることが考えられました。

とはいえ、実際に場所を構えてクリニックを立ち上げるよりも時間や費用を抑えることができるため、移動式診療所は現実的なプランだと感じたのだとか。

illustration of a hand holding a van
JACKY BOEHM

安全性が最優先事項

「Abortion Delivered」は、ロー対ウェイド事件を機に、その取り組みを加速させるとともに、さらにセキュリティを最優先に置くことを余儀なくされました。

基本的には、移動診療所で行う診療内容の詳細や、診療を行う日時についても公にはしていません。

「放火や営業妨害、白人至上主義を唱える団体からの抗議を経験し、自分たちを守るために安全性を確保する必要がありました」

各バスには臨床医、医療助手、運転手、警備員の少なくとも4人のスタッフが割り当てられ、「少人数で、お互いに信頼し合える関係性を築いている」と、アマンダは説明しています。また、バスは万が一に備えて、防弾仕様になっているのだそう。

サービスの広め方

中絶が必要な人々自身がこのバスをどう見つけるのか疑問に思う人も多いかもしれませんが、「Abortion Delivered」では地域ごとの中絶をサポートするグループと内密にネットワークを構築し、クリニックや基金の主催者にプロジェクトを周知する活動を精力的に行ってきました。このネットワークを通じて、患者たちはチームとコンタクトを取ることができるのです。

たとえば、クリニックに中絶手術の予約を入れようとしたけれど予約枠がすべて埋まっていた場合、すでに「Abortion Delivered」と繋がりを築いていた団体が、数日中に移動診療所による別のオプションがあると教えてくれます。

その後、「Abortion Delivered」に直接連絡が行き、安全確認と手配、そして予約日時に近づくと診療所の位置が知らされるという仕組みです。

バス内での診察方法

バス内は、クリニックの診察室とあまり変わりません。

車内は「米国障害者法 (ADA)」にも対応したワンルームで、診察台、椅子数脚、流し台、冷蔵庫、必要な医療機器を置くスペース、プライバシーを守るためのカーテンが備えつけられています。クリニックでの中絶と同様、妊娠初期の中絶の場合は約5分程度の処置の後、20~30分の回復時間を設けて終わります。

この効率の良さが、薬による中絶よりも手術を求めて移動診療所を訪ねる理由の1つなのだそう。

医療チームのディレクターであるジュリー・アマオン医師は、「中絶薬は安全で快適な場所で休むことができる人にとっては良い選択ですが、人によっては、薬を摂取することで、子宮の収縮による数時間におよぶ激しい痛みや出血などの副作用を伴うことがある」と説明します。

家から離れている場合、薬を飲んだ後に横になれる場所を探すか、中絶治療が禁止されている可能性のある州に薬を持って帰らなければなりません。特に有色人種や社会から疎外された人々にとっては、犯罪に巻き込まれる可能性が高く、法的にもリスクが高いとアマオン医師は指摘します。

一方で、州ごとの法律を遵守することも重要視しているという「Abortion Delivered」。弁護士と毎日のように連絡を取り合い、各州の法整備や更新、社会・政治情勢の変化などを常に把握することに努めており、法律が許すギリギリの範囲で拠点を構えることを心がけているそう。

なぜコロラド州に拠点を置くのか

現在拠点を置いているコロラド州は、「出発点として、またトライアルの場として理にかなっている」と、アマオン医師。

テキサス州やオクラホマ州のような厳しい規制が設けられている地域からやってくる患者にとって、コロラド州は安全な地域であるうえ、他の州で制定されているような診療所における規制がないことも拠点に選んだ理由なのだとか。

コロラド州は、医師だけでなく、診療看護師(ナース・プラクティショナー)、助産師、医師が行う医療行為の一部をカバーするフィジシャン・プラクティショナー などの資格を持った人々がクリニックで中絶を行うことを許可している18州の一つであります。

「Just the Pill」は保険に対応していませんが、中絶の費用はわずか350ドル(約5万円)で、全米における平均の自己負担額575ドル(約8万円)よりはるかに低くなります。

包括的にサービスを提供をするために

アクセシビリティとインクルージョンは、この団体の価値観の中核をなすものだとアマンダは言います。

スタッフの大半はバイリンガルで、話せる言語を合わせると9カ国語、さらに15カ国語の翻訳サービスを提供。スタッフの55パーセントがBIPOC(黒人、先住民や有色人種)で、少なくとも36パーセントがLGBTQ+当事者なのだそう。

1台のバスで1日に最大16件の中絶処置を提供しており、ニューメキシコ州やイリノイ州、ミネソタ州などでの展開も視野に入れていると語ります。さらに、2つの手術室と専用のリカバリー・スペースを備えた大型の人工妊娠中絶用バスも計画中。これにより、妊娠13~24週の患者も中絶も行えるようになるそう。

すでに、他の中絶業者数社が「Abortion Delivered」の運営モデルについて学びたいと連絡が殺到しており、今後もサービスが拡大されていく兆しが見えていると言います。

※この翻訳は抄訳です。
Translation: ARI 
COSMOPOLITAN

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