※本記事は2022年10月16日にWomen's Healthで掲載されました。
エストロゲンは単なる女性ホルモンじゃない。ジェンダーに関わらず、体の中で一番大事なホルモンはエストロゲンという専門家もいるくらい偉大なホルモン。生殖可能年齢の女性の体内では、エストロゲンの大部分が卵巣で作られる。でも、実をいうとエストロゲンは、老若男女を問わず万人の副腎や脂肪細胞で生涯にわたり作られるユニークなホルモン。
「エストロゲンは“ホルモンの母”といっても過言ではありません」と話すのは、米カリフォルニア大学デービス校が運営する医療センターの産婦人科部長ミッチェル・クレイニン医学博士。「エストロゲンは人類の進化の過程で最初に作られたホルモンです。体内のすべての臓器にエストロゲンの受容体がありますよ」
エストロゲンは、生殖機能を含む数々の身体機能において重要な役割を果たしているにも関わらず、ほとんど脚光を浴びていない。
「エストロゲンは脳機能をサポートします」と話すのは、米国内分泌学会のスポークスパーソン、スバラクスミ・トリクダナサン医学博士。「骨と皮膚の健康や性欲にも重要ですし、さまざまなコレステロールの代謝にも関係するホルモンですよ」
こんなに大事なホルモンのことを詳しく知らずに生きるのは今日でおしまい。アメリカ版ウィメンズヘルスの記事から、ホルモンの母、エストロゲンに関する最低限の知識をつけよう。
天然のエストロゲンには4種類ある
体内で作られるエストロゲンは単体というよりも、それぞれ別の特徴を持つ4種類のエストロゲンの集合体。
エストロン(E1)は卵巣、副腎、脂肪細胞で産生され、男性が持つ2種類のエストロゲンのうちの1つ。生殖可能年齢の女性の体内にもあるけれど、このホルモンがもっとも活躍するのはエストラジオールが激減する閉経後。
エストラジオール(E2)はもっとも強力なタイプのエストロゲンで、生殖可能年齢の女性の体内で優勢になる。「エストラジオールは思春期の女の子に体の変化(乳房の発育、陰毛の発生、初経など)をもたらします」とトリクダナサン博士。「その後もエストラジオールは、プロゲステロンと相まって月経周期を調節したり、子宮内膜を厚くしたり、排卵に向けて毎月卵子を育てたりといった重要な働きを続けます」
エストリオール(E3)は胎盤で作られる。検知可能な量になるのは妊娠中だけ。胎児の成長に合わせて子宮を拡張し、出産と授乳に向けて体を整える役割を持つ。
エステトロール(E4)は妊娠中の女性の体内に見られるけれど、実際は胎児肝臓で産生され、胎盤を介して母体に送られる。E4は1965年に発見されたばかりで、その後35年にわたり無視されていた。胎児の発育におけるエステトロールの役割は正確に分かっていない。でも、出産までは着実に増え続け、出産後に激減するので重要と思われる。
避妊におけるホルモンの役割
避妊ピルに避妊効果があるのは、エストロゲンではなくプロゲスチンのおかげ。プロゲスチンはプロゲステロンの合成ホルモンで、精子が卵子と出会って受精・妊娠することのないように、子宮頸管の粘液を濃くしてくれる。
実のところ、プロゲスチンだけの避妊ピルは少なくない。エストロゲンを含まないピル(“ミニピル”と呼ばれるもの)は少量のプロゲスチンしか含んでおらず、頸管粘液を24時間ちょっとの間濃くするだけなので、避妊効果を持続させるためには毎日同じ時間に飲む必要がある。
でも、それは大半の人にとって非現実的なリクエスト。そこで避妊ピルの製造メーカーは、1回分に含まれるプロゲスチンの量を増やして、頸管粘液を濃くするだけでなく、卵巣から卵子が放出されるのを防ぐことにも成功した。ときどきピルを飲み忘れてしまっても避妊効果が持続するのは、この二重の防御構造のおかげといえる(ただし、確実に避妊したいなら、飲み忘れた分を思い出した瞬間に飲むこと)。
でも、避妊に必要ないのなら、どうしてピルにエストロゲンを入れる必要があるのだろうか? それは、増量されたプロゲスチンの作用を中和するため。卵巣をシャットダウンして排卵を止めると、エストロゲンが十分に産生されなくなってしまう。先述の通り、エストロゲンが身体機能に及ぼす作用は大きいので、プロゲスチンが増えているのにエストロゲンが減少すれば、体調が崩れてもおかしくない。
トリクダナサン博士によると、閉経などの理由でエストロゲンが減少すると、さまざまな症状が現れる。とくに一般的なのは以下の7つ。
・生理が軽くなり、何カ月も来なくなるか完全に止まる
・ホットフラッシュや寝汗
・腟壁が薄くなって乾く
・皮膚の乾燥
・性欲の低下
・睡眠障害や不眠(ホットフラッシュが原因になることも)
・気分のむら
エストロゲンを含む低用量ピルの安全性
現代の避妊ピルの有効性と安全性は非常に高く、長期的に使っても大丈夫。そのワケは今日の避妊ピルに含まれるホルモンの量にある。
この半世紀で「経口避妊薬に含まれるエストロゲンの量は大幅に減りました」とトリクダナサン博士。事実、1960~1980年代にかけて処方されていた避妊ピルには50~80cmgの合成エストロゲンが含まれていたけれど、今日の避妊ピルには10~20mcg(多くても35mcg)しか含まれていない。
避妊ピルの服用に伴うリスクも、この数十年で大幅に低下した。実際に大規模な疫学研究の結果は、健康な女性がピルを飲んでも、がんのリスクは著しく増加しないことを示している(でも、トリクダナサン博士いわく、エストロゲン受容体陽性乳がんの既往歴がある人は、エストロゲンのピルを飲むべきじゃない)。米メイヨークリニックによると、避妊ピルはむしろ卵巣がん、子宮内膜がん、大腸がんのリスクを下げる。
過去の高用量ピルでは高いとされた血栓のリスクも、低用量ピルの登場で著しく低下した。「今日のピルは本当に、本当に安全です」とクレイニン博士も同意する。「現在の避妊ピルなら、血栓のリスクも妊娠中や出産直後よりはるかに低いです」
低用量ピルの未来
今日の避妊ピルは、かつてないほどに安全。でも、研究者たちは、女性にとってよりよいオプションの開発を続けている。例えば、エステトロール(E4)を含むピル。合成エストロゲンを含むピルと同等の避妊効果と生理周期調整作用を持つ一方で、血栓や合併症のリスクはエストラジオールを含むピルよりさらに低い。
「エステトロールは子宮にプラスの影響を与え、プロゲスチンの作用が強くなりすぎないようにしてくれるので、生理周期がうまく管理できますよ」とクレイニン博士。「骨と脳にもよい影響を与えますが、肝臓、腎臓、そして胸にはなんの影響も与えません」。最近では、更年期の症状を緩和するホルモン補充療法にE4を用いるための研究も行われている。
「研究者たちが新しい商品を開発するのは、健康なユーザーが抱えるリスクを最小限に抑えるためです」とクレイニン博士。「エステトロールはゲームチェンジャーになるような気がしています。天然のエストロゲンであることを除けば、デザイナードラッグ(CBDのような合法麻薬)のようなものですから」
※この記事は、アメリカ版ウィメンズヘルスから翻訳されました。
Text: Shelley Flannery Translation: Ai Igamoto