加齢とともに、たるみが表れるのは顔もデリケートゾーンも同じ。デリケートゾーンもこまめなセルフケアで、将来のリスクを大幅に回避することができます。膣委縮や、尿もれ、かゆみや、におい、黒ずみ、VIO脱毛など……悩みは人それぞれです。
顔にシワが現れるように、腟も老化して萎縮します。エストロゲンの分泌量が低下すると、まるでこのりんごのように、うるおいを失い乾燥し萎縮。腟壁は弾力を失いペラペラになり傷つきやすくなります。加齢による変化には抗えませんが、手をかけた人とかけていない人とでは、将来の腟の状態は変わります。
今回は、日々多くの女性のトラブルに寄り添う、以下3人の医師にさまざまな悩みを相談。心と体を労わる回答の連続です。
●八田真理子先生(ジュノ・ヴェスタクリニック八田院長・理事長)
●関口由紀先生(女性医療LUNAグループ理事長)
●喜田直江先生(なおえビューティークリニック院長)
"デリケートゾーン"、知ったつもりになっていませんか?
「閉経後、女性ホルモンのエストロゲンの分泌量が減少することで、外陰部や腟の粘膜、皮下組織が萎縮し脆弱化。それによって起こる泌尿器、生殖器の症状が顕著に起こるトラブルをGSM(閉経関連尿路生殖器症候群)といいます。症状は、外陰部や腟の乾燥、灼熱感、かゆみ、尿失禁、頻尿・尿意切迫感、繰り返す膀胱炎、性交痛など多岐にわたります。
そもそも私たちは、自身の外陰部や腟、尿道口などがいまどうなっているか、日常的に見て触っているでしょうか?専門クリニックに通う意識の高い女性がいるなかで、意外と知っているようで知らない自分のデリケートゾーン。ケアしなければ不快症状が進行し、生活の質が著しく低下するとあれば、まずは正しく知ることから始めませんか。
[A.]その症状は腟の委縮が進んでいる可能性が。セルフケアが基本ですが、気になる場合は治療で緩和も
その症状は…【膣委縮】
非常によくあるお悩みです。GSMによる外陰部や腟まわりの痩せが原因です。全体が萎縮し水分量が減り、大陰唇、肛門周囲が圧迫され、擦れて痛むのです。性交痛もあるかもしれません。対策としては、まずはジェルやオイルを使う丁寧な保湿ケアです。入浴後はもちろん、朝もケアを行いましょう。それだけで改善しない人は、受診してエストロゲンの腟錠や、全身のホルモン補充療法(HRT)を試してもいいでしょう。しかしHRTで改善しない人や乳がんのリスクがある人も少なくないので、「モナリザタッチ」などのCO2レーザー治療も試す価値ありです。(八田真理子先生)
[A.]エストロゲンの腟錠や、男性ホルモンの補充という方法も
その症状は…【性交痛】
閉経を境に女性の体は変わります。女性にも分泌している、性欲にかかわる男性ホルモンも減ってきます。性交痛には、エストロゲンの腟錠が推奨されています。潤滑剤も選択肢のひとつ。男性任せにせず、潤滑剤の使用を提案して、使ってみることも大事です。また、モナリザタッチの治療を4週間おきに2~3回するとかなり楽になります。ほかにホルモン補充療法(HRT)も。性欲低下には男女混合ホルモンの注射剤(毛が濃くなる、声が太くなる副作用も)、男性ホルモンのクリーム剤など、テストステロンを少し補充して気分に張りを出すという方法もあります。(八田真理子先生)
[A.]適正体重を維持して、 骨盤底筋を鍛えることが重要です
その症状は…【子宮脱】
子宮脱(骨盤臓器脱)は、骨盤底筋のゆるみで子宮や膀胱、直腸などが腟から出てきてしまう症状で、出産経験がある人で大きな赤ちゃんを産んだ人に多く起こります。産後3~4カ月のケアはとても大事。重いものを持たない、無理して長く歩かない、適正体重の維持などは重要。更年期からは、特に骨盤底筋が弱ってくるので、骨盤底筋を意識した生活を。子宮脱を起こす人は骨盤底筋が弱いため、尿もれも起こしやすくなります。姿勢を整え、骨盤底筋トレーニングを行うことが対策になります。便秘の人も要注意。排便時に長くいきまないことが大事です。(八田真理子先生)
[A.]クリニックを受診してきちんと投薬治療を。 尿を溜め切ってから出すという訓練も
その症状は…【過活動膀胱】
典型的な過活動膀胱の症状でしょう。尿意切迫感を強く感じる場合は、限界まで膀胱に溜めてからトイレへ行くというトレーニングが有効です。尿意を感じるとすぐにトイレへ行くのは症状を加速させる要因にもなります。骨盤底筋をぎゅっと締めて一度尿意を逃がし、落ち着いてからトイレへ行くという訓練が大切なのです。同時に骨盤底筋トレーニングを行って、排尿のタイミングが適切にコントロールできることを目指します。それでも改善しないときは、泌尿器科を受診し、医師が処方する薬をきちんと服用しましょう。(関口由紀先生)
[A.]洗う→保湿するというセルフケアが基本。それだけで大幅な改善も
その症状は…【かゆみ・におい】
閉経後に感じるかゆみやにおいは、GSMの特徴的な症状といえます。腟内を酸性に保つデーデルライン桿菌が減少することで雑菌が増え、かゆみやにおいのもとに。入浴時に洗うことはもちろん、乾燥を防ぐ保湿ケアも必ず行いましょう。洗うときは小陰唇を優しくめくるようにしてひだの中も洗います。この洗浄をしていれば、排尿の度の温水洗浄の使用は不要。セルフケアで改善が見られない場合にはエストロゲンの腟錠という治療も手段です。(関口由紀先生)
[A.]骨盤底筋のトレーニングが必須。改善が見られなければ手術も選択肢です
その症状は…【尿もれ】
骨盤底筋群に負担のかかる出産直後は尿もれに悩む人も多くいますが、自然と解消することがほとんどです。しかし、筋肉量が減る更年期以降の尿もれには対処が必須。くしゃみや咳でもれるのは腹圧性尿失禁の可能性が疑われます。まずは骨盤底筋を鍛えることが重要。尿意をコントロールできる筋肉を鍛えることが大切です。そして「モナリザタッチ」などのCO2レーザーも有効。それでもよくならない場合や、深刻な尿失禁には手術という方法もあるでしょう。特殊なテープを尿道の下に置くという手術で、保険も適用されます。(関口由紀先生)
[A.]照射治療、ヒアルロン酸注入のほか、セルフケアも有効です
その症状は…【腟のゆるみ】
比較的軽度なゆるみにはHIFU(超音波)照射が可能です。腟圧がアップし、弾力も生まれます。ほかに腟壁にヒアルロン酸を注入して壁にふくらみを出すという方法も。日常的には腟トレアイテムを使って、腟はもちろん骨盤底筋群を鍛えるセルフケアも有効です。また、経腟出産を経験した人のなかには、ゆるんだ状態で腟壁が乾燥し萎縮してしまっているケースも。その際は、レーザー治療で萎縮をやわらげ、必要があれば注入治療を行います。さらに進んだゆるみには、腟壁を切除して縮小するという手術の選択肢もあります。(喜田直江先生)
[A.]小陰唇は年齢にかかわらず縮小手術が可能です。痩せによる大陰唇のたるみには脂肪注入も
その症状は…【小陰唇・大陰唇の肥大】
小陰唇の大きさには個人差があり、もともと大きめの人もいます。また加齢とともにたるんで肥大化することもありますが、いずれも切除手術で縮小することが可能です。必要以上に大きい、下着が挟まったり自転車に乗った際に痛んだりするだけでなく、将来介護を受けることになったとき、不衛生の原因になることも考えられます。大陰唇は加齢や急激に痩せることでたるみが生じることがありますが、この場合はたるんだ部分を切除するほか、ヒアルロン酸を注入してハリを出すことも可能です。(喜田直江先生)
[A.]清潔に保つためにもVIO脱毛はおすすめ。黒ずみにはピーリングという手も
その症状は…【黒ずみ、VIO脱毛】
将来、介護を受けることを想定して、より清潔に保つために、VIO脱毛を検討する人が増えています。そもそもVIOとは、ビキニライン、大陰唇まわり、肛門まわりというデリケートゾーン全体を指し、この部分の毛がないと、介護をする人への負担が減るといわれています。大陰唇まわりの黒ずみはメラニンの生成が多いことも関係しているので、加齢とともにある程度薄くなるでしょう。しかし、鼠径部は下着の締め付けによる色素沈着なので、ピーリング治療が効果的。締め付けにくい、シームレス(無縫製)のショーツをはくことも予防策のひとつです。(喜田直江先生)
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八田真理子先生(ジュノ・ヴェスタクリニック八田院長・理事長)
はったまりこ●産婦人科医。1990年、聖マリアンナ医科大学医学部卒業。順天堂大学、千葉大学、松戸市立病院産婦人科を経て、1998年に現クリニックを開院。10代から老年期まで、幅広い世代の女性の悩みに寄り添い治療を行っている。日本産科婦人科学会専門医。
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関口由紀先生(女性医療LUNAグループ理事長)
せきぐちゆき●女性泌尿器科医。横浜市立大学医学部泌尿器科ほかを経て、横浜元町女性医療クリニックLUNAを設立。のちに法人化し、現在3つのクリニックを経営する。2007年に横浜市立大学大学院医学部泌尿器病態学を修了、同大学医学部客員教授となる。横浜市立大学医学部付属病院にて女性泌尿器科外来を担当。
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喜田直江先生(なおえビューティークリニック院長)
きだなおえ●形成外科・美容婦人科医。京都府立医科大学卒業。産婦人科にて多数の分娩、手術症例を経験後、形成外科勤務を経て美容外科・美容皮膚科全般の診療にあたる。2011年、現クリニック開院。多数の婦人科系美容手術の症例をもち、全国から多くの患者が訪れる。
『婦人画報』2020年11月号
文・取材=増田美加 イラスト=きくちりえ(Softdesign llp.)