「メンタルヘルス(精神や心の健康)は、身体の健康と同じくらい重要」という考え方が浸透しつつある昨今。セレブや著名人の間でも、自身が抱えるメンタルヘルスの悩みや症状をオープンに明かす人が増え、心理カウンセリングに対する注目も高まっています。
そんななか、メンタルヘルスへの対処方法がジェンダーによって異なるという問題も。本記事では、「男性らしさ」という固定観念によるメンタルヘルスへの影響と大切な人への寄り添い方を、専門家の知見とともにお届けします。
「男らしさ」という呪縛
イギリスの財団<Mental Health Foundation>によると、英国在住の50歳未満男性における最大の死亡原因は「自殺」で、その数は女性のおよそ3倍にも及ぶとのこと。その要因には、男性は女性よりも心の不調を訴えなかったり、心理療法に助けを求めない傾向にあることが考えられています。
臨床心理士ジェイ・ワッツ博士は、「男の子は泣いてはいけない」という固定観念を幼いころから内面に刷り込まれることによって、男性は感情的な痛みを表現するべきではないと考える傾向があるとのこと。
メンタルヘルスに特化したソーシャルワーカーで作家のJJ・ボラさんは、心の不調を感じていても、男性として“強くあるべき”というプレッシャーから、周りからのサポートを受けることに“敗北感”を感じ、自分一人で対峙するべきだと考えていたと吐露します。
「家父長制が名残が存在する現代では、男性の方が機会に恵まれ権力を与えられやすく、社会の恩恵を受けていることは事実です。しかし、その中で孤独や不安に苛まれ、表現できないでいる男性たちも多いのです」
感情表現の違い
ジェンダーにおける社会的な役割や期待が疑問視される現代では、感情の表現方法は性別に関係なく平準化されつつあります。しかし、痛みの感じ方や現し方は未だ男性と女性で異なる場合が多いと、ワッツ博士は指摘。
「たいていの場合、女性は男性よりも自分の感情について日常的に話す傾向があります。一方で、男性にとって“人と会う”ということは“Be(一緒にいる)”より“Do(何かをする)”という考えの方が強いため、対人関係によって感情的なサポートを受けようとする意識は薄いんです」
また、メンタルヘルスの不調に気づこうとしなかったり、感情を表現しないことが「男性らしさ」の一部だという考えが内面化された人が多いため、心の状態を聞かれても、「大丈夫」としか答えようがないと考える人が多いとのこと。
大切な人への寄り添い方
男性のみならず、人にメンタルヘルスの状態を訪ねる際には「今どんなことを感じているの?」と、できるだけ「はい」や「いいえ」で回答できない質問から始めることがポイント。
また、「あなたの感情や“弱み”を知っても、あなたに対する見方や、大切に思う気持ちは変わらない」ということを相手に伝えることが重要と、JJさんはアドバイスします。
男性のみならず、すべての人とコミュニケーションをする上で大切なことではありますが、メンタルヘルスについて会話をするときには、すぐに問題点や克服点を断言しようとせずに、相手が表情や選ぶ言葉に意識を向け、辛抱強く聞き、どんなことを感じているのかを想像するようにしましょう。
「性別に関係なく、すべての人に感情が存在し、それを共感しあうための力があります。しかし、社会的文化的な性差によって、男性は内面を表に出すのに時間がかかる傾向にあります。そのため、サポートをする側は忍耐力が必要なのです」
大切なのは、相手を“直そう”としないこと。「“あなたはこういう部分を直すべき”というスタンスではなく、相手が自分で気づくことのできていない問題点を一緒に見つけることから始めましょう」とJJさん。
メンタルヘルスについて話すことの重要さに気づき、それを実践できるようになるまでの道のりは人それぞれ。だからこそ「ほかの人とは深い会話ができるのに…」と比較してしまうことが、相手の心を閉ざす要因にもなるとワッツ博士は説明します。
考え方や表現方法は、その人が育った環境や社会的な固定観念から大きな影響を受けるもの。まずは、相手のバックグラウンドに注視して寄り添ってあげることが、大切な人の心を開く鍵なのかもしれません。
※この翻訳は抄訳です。
Translation: ARI