更年期障害や閉経は、多くの人にとって心身ともに困難な経験。しかし、つらい症状を抱えていても偏見などを恐れ、なかなか声を挙げられないケースが多いという現実も。
更年期障害や閉経にまつわるケアは、あらゆるジェンダーやセクシュアリティの人がアクセスできてしかるべきもの。一方で実際にはまだその環境は整っておらず、なかでもLGBTQ+当事者への更年期障害や閉経にまつわるサポートには課題が山積みなのだとか。
本記事では、LGBTQ+当事者が語る閉経や更年期障害の実情と、社会が取り組むべき課題について<グッド・ハウスキーピング イギリス版>からお届けします。
現在国内に20~50万人のトランスジェンダー当事者がいると推定している、イギリス政府。2016年に現地新聞の<ガーディアン>が報じたところによると、性別違和(GID)の診断や身体治療を受ける人がここ数年で劇的に増加しているとのこと。
また、レズビアンやバイセクシャル、ゲイであることを自認する人も増えており、2014年には1.6%だったものの2018年には2.2%に上昇。これらの数字は、「LGBTQ+であると自認し、更年期障害を経験する可能性がある人」が増えることを示唆しています。
ヘテロセクシャルであることが前提とされがち
一方で「更年期障害」については、ヘテロセクシャル(異性愛)であることを前提として議論されがち。更年期障害の症状は、パートナーや家族との関係や恋愛にも直接影響を与える場合が多いにも関わらず、ジェンダーやセクシュアリティによって、自分たちに合ったサポートを受けられない可能性があるのです。
レズビアンであるジェーンさん(仮名)の場合
現在52歳のジェーンさんは、49歳の時に生理周期の変化を感じはじめ、以来、更年期障害の治療を受けています。
性欲は変わっておらず、妻とのセックスライフを維持していますが、もしアドバイスが必要になったとしても、「家庭医(イギリスでは、家庭医が医療につながる窓口となる)には頼らないつもり」と言います。
「家庭医によるアドバイスは、男女間のセックスについてが基本です。レズビアンセックスについて、有効なアドバイスをもらえるとは思えません」
「私たちが性的なことで何か問題を抱えた場合には、家庭医よりもセラピスト(カウンセラー)に話を聞いてもらいたいし、まずはオンラインで自分に当てはまる情報を探しますね。私が知る家庭医の多くはセクシャルマイノリティのセックスについての知識を持っていないため、彼らと話す意義を感じられないのです」
また、「病院や公的な機関が出している冊子や情報にアクセスをしたところで、セクシュアリティの多様性を理解したうえで閉経や更年期障害について解説しているものは稀です」と、ジェーンさんは指摘。
「女性は一人一人が異なる人間であることや恋愛の形も多様であることが、いかに一般に認められていないのかが分かります。セクシュアリティや多様性などをまったく考慮せず、ただ『あなたは40代後半~50代前半の、そろそろ更年期を迎える女性です』と一括りにされてしまうのです」
「“女性”だけに起こること」として語られがち
“女性”だけに起こることとして語られがちな、閉経や更年期障害。しかし、割り当てられた性が女性だったトランスジェンダー男性や、男性でも女性でもない第3の性であるノンバイナリーの人など、さまざまな性自認の人々に起こりえることです。
また、更年期障害のような体内の変化が起こると、自分が生まれつき持っている生殖システムや、自認していない性別とされていた過去を思い出してしまい、深刻な不安や不快感を経験する人もいるそう。しかしこうした悩みが正確に理解されないことが多いため、医療の助けを避ける人も多いとのこと。
トランスジェンダー男性であるサムさん(仮名)の場合
現在36歳のサムさんは、パンデミックによって延期されている子宮摘出手術を待っており、テストステロン(男性ホルモン)の注射に加え、エストロゲン(女性ホルモン)の生産をブロックするための注射も受けているそう。
EU離脱の輸入への影響から、もしもテストステロンの注入が一時停止された場合には、体内の性ホルモンがなくなり、ホットフラッシュのような更年期障害の症状を経験することなってしまう恐れが。
サムさんは「そう考えただけでとても不安です。特に、女性性に関するヘルスケア問題は、大きな不快感を伴います」とコメント。
「『僕の体は自然にテストステロンを生成することはないけれど、エストロゲンは生成する 』という事実と向き合わざるを得ないのです。これは不快以外の何ものでもありません」
適切な治療やサポートを受けづらい現状
LGBTQ+当事者の更年期障害体験について調査してきた心理セラピストでありカウンセラーのタニア・グライドさんによると、「家庭医に対するトレーニングが不足しているため、身近な医療の場でLGBTQ+当事者に適切なアドバイスやサポートを提供することができていないのです」とのこと。
「この現状では、わざわざ医師のもとに出向く価値がないので、当事者は受診を避けるようになります。しかしこういった状況は、当事者の生活を大幅に改善するはずの治療やサポートを見逃すことに繋がります」
トランスジェンダー女性であるカミラ医師の場合
トランスジェンダー女性のカミラ・カマルディン医師は、家庭医であり、LGBTQ+当事者の医療・健康環境の改善を訴えるアドボケーターとして活動する人物。
自身が患者の一人としてサポートにアクセスする難しさを感じており、医療現場においてトランス当事者に対する認識や教育が不足していると認識しています。
「私自身も家庭医ですが、私のことを理解してくれる医師がクリニックにいるのは木曜日だけなので、この医師の診察を受けるためにクリニックに行くのを2~3週間延期することもあります。家庭医である私自身がこのように感じてしまうのは、本当に残念なことです」
インクルーシブな言葉を使う重要性
医療現場でも日々の生活の中でも、すべての人を対象に更年期障害について話し合うためには、“インクルーシブ(包括的)な言葉”を使うことも大切なこと。たとえば、個人に対して「彼」や「彼女」といった限定される代名詞を使うのではなく、「人」や「人々」と表現する方が適切なことも。
「多くのトランス当事者が、サポートを求めて最初にコンタクトするには家庭医であることが多いのです。ですから、家庭医がトランスジェンダーについての知識や正しい代名詞の使用法についてトレーニングを受けることは非常に重要です」
グライドさんはインクルーシブな言葉を使うことは「多数派だけではなく、すべての人が平等にサポートされていることを世間に示すこと」だと説明。
「インクルーシブな言葉を使うことで、排除するのではなく“歓迎されている”ことが伝わります」
「一方でこういう議論になると、『女性は更年期障害について何も語ってはいけないの?』と勘違いされることもありますが、誰もそんなことは言っていません。もちろん“女性が”更年期を迎えることを、限定的に語ることもアリでしょう。でも、誰しもが個人であり、“人”が更年期を迎えることであることを忘れないでほしいのです」
すべての人が平等に適切な治療やサポートを受けることができる社会を目指すには、インクルーシブに考え、話すことが不可欠。閉経や更年期障害についてのオープンな議論が活発化し、誰もが議論に参加できるようにすることが、私たちが目指す第一歩なのかもしれません。
※この翻訳は、抄訳です。
Translation: 宮田華子