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【WeSAYオリジナル対談】森星のBeyond Gender「性差からイノベーションを生む」~お茶の水女子大学大学特任教授・佐々木 成江さん編 vol.1

モデルの森星さんがナビゲーターとなり、セクシュアルウェルネスやジェンダーについて専門家にヒントをいただく企画「Beyond Gender」。第4回目は、「ジェンダード・イノベーション」をキーワードに、性差について考えることがより良い社会にどのようにつながり得るのか、お話を伺います。レクチャー下さるのは「お茶の水女子大学ジェンダード・イノベーション研究所」特任教授の佐々木成江先生です。

「ジェンダード・イノベーション」とは?

森星さん(以下、森星)●「Gendered Innovations(ジェンダード・イノベーション)」というのは、今回初めて聞いた概念です。まず、言葉の意味をご説明いただけますか。

佐々木 成江先生(以下、佐々木)●「ジェンダード」=「性差に基づく」、「イノベーション」=「技術革新や新しい価値の創造」と訳せます。つまり、ジェンダード・イノベーションとは、「男女の性差を捉えることで新たなイノベーションにつなげる」という考え方です。2005年に米国スタンフォード大学のロンダシービンガー教授が作り出した、比較的新しい概念でもあります。

森星● まだフレッシュな概念なんですね! どうしてこのような考え方が生まれたのでしょう?

佐々木● 今まで、科学・技術分野における研究や開発の多くは男性を基準や対象に行われていて、女性が見過ごされがちでした。そのようななかで、性差をもっと意識すべきであるという認識が高まり、ジェンダード・イノベーションが求められるようになったんです。

森星● なぜ、今までは研究や開発の対象は男性中心だったのですか? 女性も対象とすると費用や時間がかかるからですか?

佐々木● 女性は妊娠・出産をする可能性があるため、安全性を考慮して臨床試験の対象にしない方がいいという考えがあったことが一因だと思います。実際、1960年代に「サリドマイド事件」として知られる医薬品の副作用事件が発生しました。この事件では、妊娠初期にサリドマイドを服用すると胎児の発達に悪影響を及ぼすことが判明したのです。

私は生物学の研究者ですが、人間だけでなく動物を使った実験でも、オスが使用されることが一般的です。メスは生理周期があるため、データがぶれやすいというのが理由です。

男性中心に開発された薬の危険性

森星●女性への優しさから男性中心になっていた面もあるのですね。でもそれが問題視されるようになったということは、男性中心だと、女性に不利益が生じてしまうことがあったということですか?

佐々木●そうなんです。例えば、薬の利き方や体の残りやすさ、副作用は性差によって異なります。1997年から2000年までアメリカで副作用を理由に市場から撤退した10種類の薬のうち、8つが女性に大きな健康被害をもたらすことが明らかになりました。また、睡眠薬の一種であるゾルピデムは、男性よりも女性の方が体内に残りやすく、薬の効き目が消えるとされる8時間後の体内の残留量を調べたところ、女性は男性の5倍でした。ですからアメリカでは、女性は服用量を半分にしたという動きもあります。男女の性差を考慮せず画一的に施行されてきたこれまでの医療に対する反省から生まれたこのような性差医療も、ジェンダード・イノベーションのひとつです。

森星●「性差医療」という言葉も初めて聞きました! 薬などの医療以外でも、男性中心のアプローチが女性に不利益をもたらすことはありますか?

佐々木● 工学分野でよく知られているのが、車の衝突実験です。使われている男性のダミー人形は、白人男性の身長の中央値である175cmですが、女性のダミー人形は145㎝ととても小さいことがまず問題です。また、運転席には女性のダミー人形は座っておらず、女性ドライバーの重傷率は、男性と比べて約47%高くなるという結果が出たんです。

さらに、一般の乗用車の多くでは3点式のシートベルトが使われていますが、事故の際に妊婦の流産率を上昇させる可能性があることが明らかになっています。シミュレーション解析により、胎児への衝撃を減らすシートベルトの装着方法の研究もおこなわれています。

ジェンダーとセックス。二つの性差を見る

森星 男性と女性の体には明らかに違いがありますものね。その性差を考えずに設計されたものが、女性にとって不適切になってしまうことがあるんですね。

佐々木●そうなんです。そして、「ジェンダード・イノベーション」における性差とは、二つの意味があります。一つ目は男らしさとか女らしさなど、社会・文化的に作られた性であるジェンダーの差。二つ目は、体の構造など生物学的なセックスの差です。

森星●薬やシートベルトは、二つ目のセックスの方の性差の例ですね。ジェンダーの方の性差の例としては何かありますか?

佐々木●うつ病の発症率は女性の方が男性よりも高いですが、これは生物学的な要因によるものなのか、家庭内暴力や性的暴力などの社会的要因なのか、両方を考慮しないと理解できません。

森星●結果だけ見て「これが問題だ」というのではなく、そのプロセスを知らないといけない。色々と影響し合って、結果、こうなっているということをていねいに見る必要があるんですね。

佐々木●セックスとジェンダーの両方の性差をきちんと見ることが大切だと感じています。ジェンダーの分野の先生は文系の方が多いのですが、文系と理系が共同して研究を進める必要があると思います。ものすごく総合的な分野になっていますね。

差があるかどうかをまず調べることが大切

森星●ジェンダーというと、ジェンダー平等、差がないことを目指すというのが最近の流れかと思っていたのですが、「差」を意識することも大切なんですね。

佐々木●ジェンダード・イノベーションというのは、「イコーリティ(平等)」よりも、「エクイティ(公正)」を重視しています。平等は同じものを与えるということだと思うのですが、元々差があるところに同じものを与えたら差があり続けてしまう。だからまず差があるかどうかをきちんと調べて、差があった場合はそこを補う。それがエクイティです。まず差を調べて、差があったらそこを埋める技術や研究を進めるのです。

森星●平等というと、自分の特技とか強みを消してみんな一緒になるというイメージがありました。でも公正=エクイティは、自分のそういった個性みたいなものを消さなくていいのかな、活かしていいのかなと、ものすごくしっくり来ました。

佐々木●みなさんそれぞれ個性がありますよね。性別もひとつの個性ですし、年齢、民族、どこに住んでいるか、経済的状況など、様々なものが重なり合って個人というものを作り上げています。性別だけでなくそういうあらゆる要素をきちんと見ていきましょうということが、ジェンダード・イノベーションで非常に重要視されています。

性別や差をなくしていくことの危険性

森星●性って、男、女、とはっきりと分かれているのではなくてグラデーションがある気がします。

佐々木●その通りなんです。昔は男と女で明確に分かれていると思われていたのですが、それは違うというのが分かってきました。2極化しているのではなく、スペクトラム風だというのが今の見解です。ちなみにですが、魚は簡単に性転換するんですよ。性が非常に揺らぎやすいんです。さらに、私が研究している真正粘菌という原始的な生き物は700も性があります。生物学を学んでいると、多様な性というものが自然に捉えられるようになります。

森星●ジェンダーは白か黒、0か100ではない。グラデーションである。そう考えると、最近話題になっているオールジェンダートイレはいいものなのでしょうか? 

佐々木●オールジェンダートイレに関しては、お茶の水女子大学の中でも研究されている先生 がいますが、非常に難しいと聞いています。さまざまな利用者の意見を聞き、色々なトイレを提案して使ってもらって、どんどんバージョンアップしていくのが重要だと思います。一方で、エクイティの観点からは、女性用のトイレを現状より増やした方がいいと考えることもできると思うんです。多くのトイレは男性より女性の方が待ち時間が長いので、その差を補う作業も大切だと言えます。

森星●確かにそうですね! ただ「差をなくそう」ではなくて、「差があるかどうかをまず調べること」は大切ですね。

佐々木●森さんが先ほどおっしゃっていたように、最近は「性別欄をなくそう」という風潮がありますが、これには危険性も伴います。例えば、ジェンダード・イノベーションは、日々、精査や分析をしていくので、データが必要なんですね。それなのに、性別欄をなくしてしまうと、そもそも性別データが取れません。差があったときはきちんと埋めたいと思いながらも、 まず差を見つけることができなくなってしまうのです。あるカード会社が、夫婦のうち、妻のほうが収入が多いにもかかわらず、夫の利用限度額を何倍も高く設定していたケースがありました。そのカード会社は性別欄をもうけておらず男女差別はないと主張したのですが、審査に使ったAIが他の情報から性別を推定した可能性もあります。結局は、男女差別はなかったことが聞き取り調査などで分かったのですが、AIを開発するときには、テスト段階で性別データをいれて男女差別がある結果を出さないか検証をしなくてはいけません。そのためには性別データが必要です。

大切なのは、性別情報を闇雲に隠すことではなく、性別が分かっている状況でもでみんなが平等に扱われる社会を目指していくことだと私は考えます。そして今はまだ、どのような差が生じているのかチェックをしていく段階だと思っています。
 

森星●なるほど。色々と教えていただきましたが、私はまだジェンダード・イノベーションを”かじり立て”なので、後半でも深堀していきたいと思います!

後編に続きます

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Profile

佐々木 成江
ささき・なりえ●お茶の水女子大学ジェンダード・イノベーション研究所特任教授。東京大学大学院理系研究科博士課程修了。専門は分子生物学。名古屋大学理学研究科准教授、お茶の水女子大学ヒューマンライフイノベーション研究所准教授および学長補佐などを経て、2022年より現職。内閣府男女共同参画会議計画実行・監視専門調査会委員。

森 星
もり・ひかり●1992年東京都生まれ。モデルとして屋外の雑誌や広告で活躍。2015年に企画・インターナショナル・ジャパンのアンバサダーにも出演。体地球優しい生活や日本文化などをSNSやYouTubeで発信、2021年8月に設立した「tefutefu」ではクリエイティブディレクターを務めています。

【佐々木成江さん】イヤリング¥55,550 ブローチ¥52,800(2点共ホアキン・べラオ) ワンピース 本人私物
【森星さん】カーディガン¥214,500 ニット¥192,500 Tシャツ¥80,300 スカート¥163,900 ニットパンツ ¥89,100(参考商品) ストッキング¥39,930 パンプス¥165,000(すべてミュウミュウ/ミュウミュウ クライアントサービス)
ホアキン・べラオ tel.03-6821-7772
ミュウミュウ クライアントサービス tel.0120-45-1993
Photos : WAKABA NODA[TRON]  Hair&Make-up : MIFUNE[SIGNO] (Ms.HIKARI MORI) , AKI TAKAHASHI[EMBELLIR] (Ms.NARIE SASAKI)   Styling : SHINO SUGANUMA(Ms.HIKARI MORI) , MISAKO MORIMOTO(Ms.NARIE SASAKI)  Text : KYOKO TAKAHASHI

 

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