モデルの森星さんがナビゲーターとなり、あらゆる性を超えてみんなが自分らしく生きるためのヒントを見つけていく「Beyond Gender」。第2回目のゲストは、産婦人科医の高尾美穂先生。知っているようで知らない、女性ホルモンと性欲についてお聞きしました。後編も後日、お届けするのでお楽しみに。
森星さん(以下、森星)●こんにちは、森星です。
私がナビゲートする「WeSAY」の対談企画、「Beyond Gender」は性とヘルシーに向き合うために、セクシュアルウェルネスやジェンダーについて専門家にヒントをいただく企画です。今回は、女性ホルモンと女性の性欲について深堀りしたいと思います。
そして第2回目の対談ゲストには 、産婦人科医の高尾美穂先生にお越しいただきました。よろしくお願いします。
高尾美穂先生(以下、高尾)●はい、よろしくお願いします。
森星●高尾先生はテレビや本SNSなどのメディアを通じて、女性ホルモンや性、更年期などのセクシュアルウェルネスについてさまざまな発信をされているので、専門的なお話を伺いたいと思います。
「ホルモン」って、そもそも何?
森星●私はモデルとして、美しくヘルシーでいるために、さまざまな情報を本やSNSなどから日々収集し、それを、食事などライフスタイルに取り入れて、体に合うか合わないかを試しています。
本当にシンプルな質問ですが、そもそも、よく耳にする「女性ホルモン・男性ホルモン」って何でしょうか? 例えば「ホルモンの働きを高める食事」などの記事を目にしたり耳にしたりするのですが…。
高尾●「ホルモン」という言葉はきっと、特に女性にとって気になるワードだと思います。星さん、ホルモンって体のどこにあると思いますか?
森星●考えたことなかったけれど、うーん…。
高尾●特定の場所など思いつきますか?
森星●女性だと性のイメージがあるので、子宮でしょうか? でも心にもあるような気がしますし…。いまいちわからないですね。
高尾●ですよね。人にはホルモンと呼ばれるものが五十数種類あるとされていて、女性ホルモンという呼び方は、実は医学的な表現ではないんです。女性特有の臓器である、卵巣がつくるホルモンのことを指していると考えていただくといいと思います。
実はホルモンは、ごくごくわずかの分子として血液の中に存在しています。体中に血液は流れていますが、ホルモンはある特定の場所、つまりそれぞれのホルモンの特徴がうまくピタッとはまる場所でしか働けないんです。例えるなら、水流の中に丸いボールや三角形のものが流れているとしたなら、丸なら丸、三角なら三角の “レセプター(受容体)”にポコッとうまくはまった場所でしか働けないという仕組みなんです。これを鍵と鍵穴の関係って呼んでいるんですね。
いちばん有名な女性ホルモンであるエストロゲンは、生理周期をつくってくれるすごくわかりやすいものです。これがどこで働くかというと、実はエストロゲンは美に関わっていて、お肌にもとても大きな影響があるんですね。肌内部にあるコラーゲンの産生を促進する、大切な役割を果たしています。ちゃんとエストロゲンがあると、肌は弾力性を保てます。
森星●女性ホルモンは、食事などで補給することはできるのでしょうか?
高尾●まずそこを整理してみましょう。私たちの体でつくられるホルモンそのものは、食べ物によって補えるものではないんですね。だからこそ、ホルモンをつくるという体の自然な状態を健康に維持する、これがすごく大事なことなの。
なぜかというと卵巣がちゃんと働くためには、卵巣が勝手に働けるわけじゃなくて脳からの指令が必要なんですよ。卵巣に向かって「エストロゲンをつくって」ってお願いをする、そうすると卵巣が「はいわかりました、エストロゲンをつくります」と応えてつくる、また、脳が「エストロゲンが増えたから減らして」と指令を出すと減らす、そんなコミュニケーションがうまく行われて、生理周期が形づくられるんです。だからエストロゲンは自分の力で増やすとか減らすことは、まずできないんです。
森星●そうなると、ただ単にホルモンが多いからよいというわけでもないんですね。
高尾●そうなんです。性周期のおさらいをしましょうか。エストロゲンがたっぷり分泌された後にだけ、排卵は起こります。排卵は妊娠できるチャンスという意味です。つまり排卵を迎えるとその後はもしかしたら妊娠しているかもしれない時期になるわけです。「排卵を迎えたということは、妊娠しているかもしれない」と体が準備したけれど、妊娠が成立しなかったときにやってくるのが生理なんです。
生理とはなにか? というと、子宮の中に赤ちゃんが乗っかるかもと思って準備をした赤ちゃんのためのベッド(=内膜)が、妊娠が成立しなかった際、「今回、赤ちゃんが乗っからなかったね、だから手放すよ」となって剥がれ落ちるのが、生理なんです。
森星●それはなぜ月に1回なんですか?
高尾●エストロゲンがちゃんと分泌され、排卵した後、妊娠しているかもしれないって私たちの体が考えている期間が14日間と決まっているんですね。この14日間は妊娠しているのかな、していないのかなって体は思っている。でも、妊娠していないと生理がくるわけですが、生理の期間はだいたい3日から7日ぐらい。その後、排卵するまでに平均が7日くらい。だからトータル1カ月になるんですよ。
森星●すごくよくできていますね。
高尾●はい。そして生理が来るよっていう体の変化は、私たち女性にとっては「ちゃんとエストロゲンが出ているよ」というサインなんです。しかもそのエストロゲンによって産生促進されるコラーゲンは、柱の役割を果たしていて、この柱が維持できると内側に水分をためておけるから、お肌がプリプリになるというイメージです。
さて星さん、このコラーゲンは、お肌以外にもあるんですよ。どこにあると思いますか?
森星●皮膚以外ですよね…。胎盤?
高尾●なかなかレアなところにいきましたね(笑)。
森星●うーん…、骨?
高尾●そう! 骨にコラーゲンはあります。柱であるコラーゲンの間をカルシウムやマグネシウムというミネラルが壁として塗りつぶしてくれるイメージです。エストロゲンがなくなっちゃうとコラーゲンが保てないために、柱がなくなってしまい、骨はつぶれちゃいます。高齢になっておばあちゃんの年齢になったときに起こりうる、突然骨が折れちゃう状態がそれなんです。
森星●なるほど! 整理するとホルモンっていうのは体の血液の中に流れている液体で、自分の鍵と形のあった鍵穴を見つけてそこにはまった瞬間に、ホルモンの働きを発揮できるというわけですね。
「女性ホルモン=セクシュアル」ではない!?
森星●いわゆる“女性らしさ"だったり、セクシュアルなオーラというのは、ホルモンとどういった関係性があるんですか?
高尾●多くの方が、エストロゲンという女性らしさを司っているホルモンとセクシュアルな部分というのを混同して考えがちなんですが、このエストロゲン自体の、「性」に対する思い切った作用というのは、排卵以外にないんです。ただやっぱり「妊孕性」、つまり妊娠できる能力というのはやっぱり女性にとってはすごく大事なもので、そのスペシャルなイメージとかなり噛み合って世の中に伝わっているんじゃないかな。
森星●ちょっとイメージがずれて、私たちに伝わっているんですね。
高尾●そうなんです。ホルモンというのはみんなにあって、いろんな種類があって、そのなかでも女性にとって大事と思われているエストロゲンというホルモンには、さきほど話した鍵穴が、お肌とか骨とかそれ以外にも血管とか…いろいろな場所にあるんです。だからエストロゲンがちゃんとあるよ、生理が来るよっていう年代のうちは、それらの働きがうまく保たれている、つまりお肌や骨が良い状態なんです。10歳くらいからだいたい50歳ぐらいまでの40年間 、知らない間に守ってもらえているんです。これが、静かではあるけれど、本当のホルモンの役割なんですよね。
今回のテーマにもなっている「性欲」に関しては、エストロゲンが担っているかというと、実はそこまでの影響はないんです。例えるならエストロゲンの“従妹”に近いようなホルモンが実は関わっています。
森星●その従妹さんのお名前が知りたいです(笑)。
高尾●はははは(笑)。ではまず、女性ホルモンがあるんだから、男性ホルモンもありますよね。では、男性ホルモンって女性にはないと思いますか?
森星●女性性とか男性性って、行きつくところグラデーションですし、自分でもたまに「すごく男性ホルモンが強いな」って思うときもありますし…。(男性ホルモンは女性にも)あるんじゃないでしょうか?
高尾●大正解です! 実は、女性にも男性ホルモンはありますし、男性にも女性ホルモンは存在しているんです。しかもこのホルモンたちの源って何だと思います? 体の中でこれらのホルモンがつくられる出発点は、実はコレステロールなんです。
森星●ええっ! びっくり!
高尾●脂肪細胞からコレステロールがつくられ、そしてコレステロールから変化する途中で、男性ホルモンがつくられるんですよ。
森星●まず脂肪があって、ホルモンになるまでの過程で、男性ホルモンになるか、女性ホルモンになるか分かれるのではなくて…?
高尾●脂肪からコレステロール、コレステロールからテストステロンという男性ホルモンを経て、エストロゲンになる。だから女性ホルモンがいっぱいある、エストロゲンがいっぱいあるという人は、それなりに男性ホルモンもあるんです。
森星●なるほど。
高尾●大昔には、敵を倒すための攻撃性が必要だった時代があったわけですよ。頑張って敵を倒さなくちゃ、やる気を出さなくちゃと頑張るなかで、自分の子孫を残さなくちゃ、という本能が絡み合ってくるんです。
この男性ホルモンというものが、いわば男性にとっての性欲を司っていますし、一方であまりイメージしにくいかもしれませんが、女性たちの内側にある男性ホルモンが、実は女性の性欲にも大きく関わっているということになるんですよね。
森星●知らなかったです! おもしろい!
でも、昔と今って、生活スタイルが変わってきましたよね。昔みたいに「じゃあ今から狩りに出るぞ!」と出かけたり、サバイバルな環境に居なくなりましたよね。現代だってもちろん大変なこともあるけれど、男性ホルモンを発揮できる場は比較的少なくなってきたなかで、どのような場所で発揮しているんでしょう?
高尾●そうですね。敵を倒すとか獲物をとってくるとかそういう役割は必要なくなったかもしれませんが、例えばお仕事に対してやる気を出すとか、新しい仕事をゲットするとか…。今のビジネスマンに必要なスキルを自分のなかで高めていくためには、多分必要なものだと思うんです。
そしてそれは女性にとってもある程度必要で、ちゃんと女性ホルモンがつくられてる人は、知らない間にこの男性ホルモンもつくられていて、それが“やる気”という形で感じることがきっとあると思いますね。
セクシュアルな部分は、脳内物質も大きく関わっている
高尾●星さんが先ほど話していた、セクシュアルな部分とホルモンの関係をひもといていきましょうか。
男性ホルモンのテストステロンは、本人が置かれている環境によって、“やる気”がどこに向かうのかが随分、変わるんです。「パートナーは今いない、でも仕事は一生懸命」という時期は「仕事を頑張ろう!」になります。逆に「パートナーがいる、好き好き!」ってなった時期には、パートナーに目が行くわけです。
テストステロンがすごく多い、すごく少ないというよりは、その環境に応じて「どこにやる気を出すか」が変わるというイメージで捉えてもらうといいと思います。
森星●すごくわかりやすいです。
自分にも思い当たるフシはあります。ホルモンの影響なのかはわからないのですが、「明日の仕事で、自分の力を発揮しよう」と思ったときに、恋愛に似たような高揚感を経験したことがあるので、先生のお話がしっくりきました。
高尾●星さんが経験した、仕事にときめくのと恋は似ているという感覚は、ホルモンだけではなくて、脳内物質が大きく関わっていると言えそうです。なかでもドーパミンは、すごく恋に似ていて「××さんをゲットしに行くぞ」という気持ちにすごく近いんです。ワクワクするけれどもその持続期間が短いのが特徴です。
それが、愛を育んでいくと徐々に変化していきます。まず、聞いたことがあると思いますが、オキシトシン。
森星●はい、聞いたことあります。
高尾●どなたかと触れ合ったときにつくられるこのオキシトシンは、「ほっとする」というイメージです。恋の場合、新しいパートナーになるかもしれない人と出会って、ワクワクどきどきするのがドーパミンで、その方とコミュニケーションが持てて連絡も来るようになってデートもできて…というときには、オキシトシンが分泌されます。
最終的に何になるかというと、セロトニンなんです。ハッピーホルモンといわれるものですね。
森星●何度か耳にしたことがあります。
高尾●脳の中での感覚としては「安心」というイメージです。恋人から家族やパートナーになったときがセロトニンです。
森星●なるほど! そういうふうに変化していくんですね。でもドーパミンってすごくわかりやすい“刺激”じゃないですか。それがどんどん慣れていくと「なんだか味気なくてつまらない」(笑)という関係になると思っていましたが、セロトニンという愛に変わると思うと、ドーパミンにはないよさがあるということですね。
高尾●それぞれによさはあるんですね。だからその時に必要な物を体がつくってくれている、という考え方をすると、“慣れちゃった”のではなく、“安心感に変わった”という捉え方ができるかもしれないですね。
森星●いいお話が聞けました。
「ホルモンバランスの乱れ」を勘違いしている人が多い!?
森星●ホルモンバランスという言葉がありますが、乱れているときに肌荒れしたり、ガールズデイ(生理)のときに人に優しくできなかったり…大きく日常生活に影響しますよね。そのホルモンバランスを整えるために、食生活など何か対処法はあるんですか?
高尾●ホルモンバランスってよく使われる言葉ですよね。理想の状態があって、そこから外れていると“ホルモンバランスが乱れている”という表現をしていると思いますが、ホルモンの値というのは、実は時々刻々と変化するものなんですよ。だから例えば血液検査で、今日と明日の数字は違って当然なんです。だから、どうなったらバランスが乱れてるんですか? という問いには、明確な答えはないはずなんです。
そもそも本来であれば生理が来ているはずの年代なのに、過度なダイエットなどで生理が止まってしまう方の場合は、間違いなくホルモンバランスが乱れています。また、更年期という時期も、卵巣がエストロゲンをつくる能力がだんだん落ちてくるために、ホルモンの値がアップダウンするんです。この時期も、ホルモンバランスが乱れているという表現がすごくマッチしますね。
そもそも生理周期は、1カ月に1回来たら整っているのは間違いありませんが、正常の範囲は25日から38日と意外に広く、さらに2カ月に1回くらいでもそこまで大きな問題ではないというアバウトなものなんです。知っておいてほしいのは、生理が来た後、数週間で生理前になり、そこから生理がすぐに来るというサイクルを巡っている方であれば、多少スパンが長かったり短かったりしても、ホルモンバランスが乱れているわけではないということです。
けれど確かに、ホルモン分泌の変動によって自分の心が揺さぶられてしまうのも事実ですよね。さきほどおっしゃった「生理でちょっと他人に優しくなれない」という状態。例えば生理痛が辛かったり、メンタル的にも落ち込みやすいために、人に優しくなれないとか、生理前に鬱っぽくなってイライラするとか…全てホルモンバランスのせいと思っているんですよね。これを裏返して、ポジティブに考えると「ちゃんとホルモンが分泌できている」と捉えられるんです。
森星●なるほど、確かにそうですね。
生理前に落ち込むのは、これまで触れてきた情報をもとに、恐れとかネガティブな面に自分がフォーカスしていたからなのかも…。ある意味、こういった揺らぎというのは、健康な証拠であり、通例のライフサイクルなんですね。
高尾●そう、揺らぎがあって普通なんですよ。
森星●すごく気が楽になりました。
高尾●それを理解したうえで、それでも調子が悪くてしんどいのなら、何か対処したほうがいいと考えるのがよいのではないでしょうか。
後編に続きます。
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対談の様子は、WeSAY公式YouTubeチャンネルでも公開中です。
Profile
高尾美穂
たかお・みほ●産婦人科専門医・婦人科スポーツドクター、ヨガ講師。イーク表参道副院長。テレビやSNSなどさまざまな媒体でのわかりやすい解説に定評がある。著書多数で、近著は『オトナ女子をラクにする心とからだの本』。
森 星
もり・ひかり●1992年東京都生まれ。モデルとして国内外の雑誌や広告で活躍。2015年にプラン・インターナショナル・ジャパンのアンバサダーに就任。体にも地球にも優しい生活や日本の文化などをSNSやYouTubeで発信し、2021年8月に設立した「tefutefu」ではクリエイティブディレクターを務める。
【森星さん】ドレス ¥511,500 タイツ ¥22,000(ともにヴァレンティノ) グローブ ¥91,300 イヤリング ¥83,600(ともにヴァレンティノ ガラヴァーニ/すべてヴァレンティノ インフォメーションデスク)
Photos:WAKABA NODA[Tron] Hair&Makeup:HARUKA TAZAKI Styling:SHINO SUGANUMA Realization:ATSUKO KOBAYASHI Text:NORIKO MASUMOTO[alto]Videographer: Kazune Yahikozawa Camea Assistant: Hayato Uchida Sound Recording: Saburo Saito Chief Video Editor: Sakihara Takashi Video Editor: Keishi Kise Special Thanks: MESM TOKYO
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