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市販化実現のために!「緊急避妊薬」について知りたいこと

市販化をめぐり、議論が交わされる「緊急避妊薬(アフターピル)」。欧米では薬局などで手に入れることができる一方で、現在の日本では医師の診察や処方箋が必要です。

緊急避妊薬に対する知識を深めるため、世界水準の避妊法や性教育を広める「なんでないのプロジェクト」代表の福田和子さんにインタビューを敢行。海外と比べた日本の現状や、市販化にあたって考えるべき内容について話を伺いました!
 

緊急避妊薬とは

妊娠の不安があるような性行為の後に服用することで、一定の確率で妊娠を防ぐことができる「緊急避妊薬」。一体どのような種類があるのでしょうか。

緊急避妊薬の種類

  • ノルレボ錠(レボノルゲストレル):72時間以内に1錠を服用。早く使うほど高い効果が期待される。妊娠阻止率は85%。金額は約6,000円~20,000円。
  • ヤッペ法:72時間以内に中用量ピルを2錠を服用し、その12時間後に同2錠を服用する方法。妊娠阻止率は57%。金額は約4,000円~7,000円。

1回1錠服用する「ノルレボ錠」が、日本で推奨される緊急避妊薬として知られています。「ヤッペ法」は、2011年にノルレボ錠が日本で承認される以前に最もよく使われていた避妊法で比較的安価ですが、ホルモン含量が多いため、副作用が強く出ると言われています。

日本未承認の緊急避妊薬

  • エラワン(ウリプリスタル酢酸):120時間以内に1回1錠を服用。時間が経っても妊娠阻止率が下がりづらく、98%の高い確率で妊娠を防ぐ最新の緊急避妊薬。

最も高い効果が期待できる「エラワン(ウリプリスタル酢酸)」は、現在日本では正式に認可されておらず、医師の個人輸入でのみ入手可能で、クリニックの判断により使用されているとのこと。

※価格は編集部調べです。詳しい価格に関しては、受診先のクリニックにご確認ください。

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Getty Images

副作用や将来の妊娠への影響は?

WHOが発表しているファクトシートによると、「ノルレボ錠」については、基本的には重篤な副作用や長く続いてしまうような副作用はないそう。

「5人に1人ほどの割合で、軽度で短期的な副作用がみられ、月経不順や疲労感、腹部の不快感などが報告されていますが、基本的には重篤な副作用や長く続く副作用はないとされています」

また「将来の妊娠にも影響を与えない」という点もWHOは発表しています。ノルレボ錠の服用によって、妊娠しにくくなったり、子宮外妊娠(異所性妊娠)の増加を引き起こしたり、流産など胎児に影響を与えることはないと述べられています。

福田さんが翻訳に携わった、WHOから認可を得たファクトシート(日本語版)はこちら

低用量ピルとの違い

「アフターピルとも呼ばれる緊急避妊薬は、あくまで緊急用です。日常的な避妊として服用するのが『低用量ピル』です」と福田さん。

「薬の種類によって飲み方は異なりますが、低用量ピルは毎日なるべく同じ時間に服用することで、妊娠を防ぐ薬です。生理痛や出血の軽減、生理周期を安定させるといった効果もあります。ですので妊娠を防ぐという目的だけでなく、それぞれの体調に合わせて服用されています」

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Getty Images

世界各国の緊急避妊薬事情

ここからは、緊急避妊薬を取り巻く状況について、日本と海外を比較しながら解説します。

若者の手が届きやすい価格帯

日本では医師の診察や処方箋が必要で、価格も1万円前後と高価なノルレボですが、薬局で市販されている国も多く、その数は世界90カ国にものぼります。

その分価格も抑えられており、福田さんによると「国によって数百円から高くても5〜6000円が相場。スウェーデンだと1,500円くらいで薬局で売られている」とのこと。

「イギリスでは2017年、3,000円前後で販売されていた緊急避妊薬に対して『値段が高すぎる』という声があがり、1500円ほどに値下げされました」

また日本では、避妊目的だと保険が適用されず、100%自己負担となる低用量ピルや避妊具も含め、若者は無料という国も。

  • スウェーデン
    21歳以下の避妊法(緊急避妊・避妊具も含め)はすべて無料。
  • イギリス
    年齢に関係なく緊急避妊含めた避妊法が無料。
  • フランス
    25歳以下の避妊法がすべて無料。
  • ドイツ
    処方箋があれば未成年の避妊法は無料。

パッチや注射など様々な避妊法が存在

価格に加え、日本では避妊法の選択肢が少ないことも挙げられます。WHOが「レボノルゲストレル(ノルレボ錠)」と並び必須医薬品としている緊急避妊薬「ウリプリスタル酢酸(エラワン)」が認可されておらず、国際的には時代遅れとされる「ヤッペ法」がいまだ現行の手段として用いられている日本では、日常的な避妊に関しても諸外国とのギャップがあるよう。

「新しい緊急避妊薬である『エラワン』は効果が5日間とノルレボよりも長く、WHOが規定している必須薬品リスト(病院を開く際に最低限準備しておくべき医薬品リスト)にも入っています。けれど、日本では認可されていません」

日本ではコンドームや低用量ピルが主流ですが、肌に貼るパッチや注射、腕に埋め込む避妊インプラントなど、次の服用や交換までの期間がピルより長く、効果も高い避妊法も実は存在するのです。

また中絶に関しても、WHOが推奨する「薬による中絶法」は認可されておらず、子宮を傷つけるリスクがある「掻爬(そうは)法」を採用している病院もいまだ存在するなど、経済的には先進国である日本ですが、性を取り巻く環境においては国際水準に満たない部分が多いと言えるのかもしれません。

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緊急避妊薬の市販化実現へ

昨年12月25日に政府が発表した、今後5年間の男女平等に向けた計画をまとめた「第5次男女共同参画基本計画」のなかで、緊急避妊薬の市販化を検討する方針が打ち出されました。

市販化されるメリットとは

まず挙げられるのが、市販化によって「緊急避妊薬」の認知が広まること。

「何度も調査をしていますが、緊急避妊薬を知らないという人も一定数いるのが現状です」

そして、週末や年末年始など病院があいていない時期にも助かる人が増えたり、物理的・精神的に病院へ行くことが難しい場合や、特にこのコロナ禍において「入手の選択肢が増えることは大事なこと」と福田さん。

「金曜日の夜に必要になることもありますし、学校や仕事を休めないという方もたくさんいます。特に地方だと、人目が気になって産婦人科に行きづらい、車でないと行けないけれど親に頼めない、という若年層の助けになったりもします。また性犯罪の被害にあって精神的にも肉体的にも大変なときに、せめて妊娠はしないという安心を得られるなど、様々なメリットがあると思います」

「特にこのコロナ禍では、病院が逼迫していたり、病院に行くことでの感染リスクをおさえるため、WHOも緊急避妊薬の市販化を視野にいれるようにという声明を出しています」

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市販化に向けて改善すべきこと

  • 「薬剤師の前で服用する」ルールはせめて選択制に
    計画では市販化を検討するにあたり、悪用や転売を防ぐため“薬剤師の前で服用すること”を条件としています。けれどただでさえ精神的負担が伴うなか、「薬剤師の前で一錠飲むということは、かなり辛い人もいると思います」と福田さん。

「入手のハードルが十分に下がれば、アンダーグラウンドな入手方法は駆逐されるはず。とはいえ一刻も早く飲みたい方もいると思うので、そういう方にはその場での服用も可能にしつつ、一人で飲みたい人にはその選択肢が与えられるべきです」

  • 性教育の充実
    国際スタンダードの指標としてユネスコが出している『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』によると、性教育は5歳から始まり、プライベートパーツに関する自己決定権の大切さや、同意に基づく対等な関係性の築き方などを学んだ上で、小学生で避妊について学ぶことを推奨しています。高校生以上でないと性行為や避妊について教わらない日本の性教育は、改善の余地があるといえるのではないでしょうか。
  • 日常的な避妊へのアクセスの整備
    緊急避妊薬へのアクセスを最優先に置きつつ、「日常的な避妊法も利用しやすくなったり、そのための知識が広まってほしい」と福田さん。

「セクシャル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツとして、避妊へのアクセスは認められるべきものだと思います。自分のキャリアを考える上でも、いつ子どもを産むか、いつ育てるかはすごく重要です。避妊をするからといって、ずっと産みたくないわけではなく、産みたいタイミングが今ではないというだけのこと。自分で計画を立て、避妊をして自身の身体を管理するのは、非常に大事なことだと思います」

緊急避妊薬を使うことは、恥ずかしいことではない

「まず伝えたいことは、緊急避妊も含めて、自分の身体や将来のことを考えて行動したというのは本当にすばらしいこと。よくやったね! と当たり前に褒められていいはずなのです」と、自身の経験からも「ジャッジメンタル(批判的)な視線はよくわかる」と話してくれた福田さん。

どうしても“失敗した”とネガティブな気持ちになってしまったり、病院での周りの目が気になる、または医師から心ない対応を受けた経験がある人もいるかもしれません。けれど福田さんは「緊急避妊薬を使用することを、もっとポジティブに捉えてほしい」というメッセージを発信してくれました。

「身体のことを考えて行動したのはえらいね」と言われる世界であってほしい

「これだけマイナスな視点がまだ社会にあって、情報も得づらく値段も高いなか、病院へ行く選択をしたのは、すごくえらいこと。自分の身体や未来を大事にしたいと思うのは、すばらしいことなのです。周りの冷たい言葉に負けずに、自分の選択に誇りを持って欲しいなと思います」

市販化に向けて、私たちに出来ること

緊急避妊薬の市販化に向けて、私たちができることはあるのでしょうか? ここからは、福田さんのアドバイスをもとに、具体的なアクションをリストアップしてお届け。

ポジティブな発言をするひとりになる

福田さんいわく、「友達と話していて避妊の話題がでたときに、ポジティブな発言をするひとりになってほしい」とのこと。

「まだ情報もインフラも色々足りない社会ですが、たとえば緊急避妊薬を飲むことに罪悪感を抱いている人が近くにいたら『それは当たり前の権利だよ』と声をかけてあげたり、一人ひとりが身の回りから行動していくことで、社会の雰囲気も明るくなると思います」 
 

オンライン署名に参加する

また、性の健康教育を広げるNPO法人ピルコンと共同で、緊急避妊薬へのアクセスを良くするための署名をオンラインで行っている福田さん。 これまで10万人以上の署名を集めていて、現在はピルコン代表の染矢明日香さん、産婦人科医の遠見才希子さんと共に 「#緊急避妊薬を薬局でプロジェクト」として継続的に政府へ提出を行っています。

 

 

緊急避妊薬のアクセス改善を求める署名はこちらから

様々な避妊法の承認を求める署名はこちらから

最後に

これまで「緊急避妊薬」を使う際に、自分を責めてしまったり、周りの視線が気になってしまった経験がある人も多いのではないでしょうか。でも福田さんが伝えてくれた通り、あのときの決断は決して恥ずかしいことでも、自分を責めるようなことでもありません。

これから自分の道を選び歩んでいく10代はもちろん、夢に向かって突き進む私たちの世代にとっても、“自分の身体を守る”ということは一人ひとりに平等に与えられた「権利」です。そして一人でも多くの人が「#なんでないの」と声を挙げることは、社会を変える大きな助けになるはず。

誰もが安心して過ごせる社会を目指すためにも、いま一度「緊急避妊薬」の重要性について考えてみてはいかがでしょうか――。

※当記事は、公開後に内容を一部修正いたしました。該当箇所は「緊急避妊薬とは」の章内、「ノルレボ錠(レボノルゲストレル):金額は約10,000円~20,000円」を「金額は約6,000円~20,000円」、「世界各国の緊急避妊薬事情」の章内、「フランス:18歳以下の避妊法がすべて無料」を「25歳以下の避妊法がすべて無料」に修正いたしました。(2022年1月6日)


今回お話を伺ったのは…
 

kazuko fukuda
Kazuko Fukuda

福田和子さん

スウェーデンの大学院で公衆衛生を専攻。留学をきっかけに日本の性を取り巻く環境に違和感を覚え、世界水準の避妊法や性教育を目指す「なんでないのプロジェクト」をスタート。避妊や性教育に関する講演や執筆、また緊急避妊薬へのアクセスを良くするための署名などをオンラインで主宰。

「​#なんでないの」公式HP Twitter
 

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福田和子
SRHRアクティビスト/#なんでないの プロジェクト
twitterBlackweb

大学在学中に留学先のスウェーデンで、日本では、性教育や避妊法の選択肢の不足によって、誰もが性に関わる健康や権利を守れない状況にあると痛感。帰国後の2018年5月、 『#なんでないのプロジェクト』をスタート。現在は 『#緊急避妊薬を薬局でプロジェクト』共同代表も務める。 スウェーデン・ヨーテボリ大学大学院公衆衛生修士課程修了。ユネスコ 『国際セクシュアリティ教育ガイダンス【改訂版】』共訳(明石書店2020)。

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