毎年3月8日は「国際女性デー」。アメリカではカマラ・ハリス氏が新副大統領に就任したことに象徴されるように、女性の活躍が今まで以上に勢いを増しています。
今回は、生理に対して抱える問題や困難をなくすためにNPO団体「Period.」を立ち上げ、ハーバード大学在学中の昨年1月に「August」という新会社をスタートしたナディア・オカモトさんにインタビュー。
オピニオンリーダーとして社会を動かし始めたZ世代のパワフルなアクティビストの彼女の考えとは…?
日本人の父と台湾人の母を持ち、ニューヨークで生まれたナディアさんは、両親の離婚後に母と2人の妹とともにオレゴン州・ポートランドへ移住。間も無くして母が失業し、一時は家族4人でシェルターなどを転々とするホームレス生活を経験していたと言います。
16歳のある日、通学途中のバス停でよく見かけるホームレスの女性に話しかけてみることに。「困っていることは何?」と質問すると、返ってきたのは「生理用品が高くて買えない」「シェルターでも恥ずかしくて生理用品が欲しいと言えない」という答え。
こうした問題は多くの貧困に悩む女性が抱えているもので、生理用品が買えずに段ボールなどで代用しているという状況を目の当たりにしました。
女性だけの家族の中で育ったナディアさんにとって生理の話は家庭内でオープンにされていたため、健康のバロメーターでもある大切な「生理」が、世間では「恥ずかしい」「生理の問題に対して声をあげにくい」という認識がある状況に愕然としたそうです。
こうしてナディアさんは16歳でNPO団体「Period.」を設立。寄付を募ってナプキンやタンポンを購入し、生理用品を買うことのできない女性たちに配り始める活動をスタート。SNS世代ならではのデジタルツールを駆使した活動はあっという間に広がり、今では全米50州、ヨーロッパやアジア各国にもその活動が広がっています。
その後ナディアさんは自身が設立した「Period.」を去り、新たにビジネスパートナーとともに生理についてオープンにディスカッションできるコミュニティ「August」を昨年起業。新たな挑戦に向けて走り続けるナディアさんに、これからの展望を直接伺いました。
最初に「生理」について興味を持ったきっかけを教えて下さい。
生理用品を手に入れることができない人たちがトイレットペーパーや靴下、茶色の紙袋、段ボールで代用していると聞き、生理の不平等さと生理用品が買えず貧困に苦しむ人々のことをもっと知りたいと思うようになりました。
また、2014年の時点でアメリカの40の州で「タンポン税(必須衛生品として非課税にされず、消費税が課せられている)」があると知ったのもきっかけです。
当時、「Period.」の運営を通して感じた課題などはありましたか?
世界の多くの地域で健康に対する教育が十分に行われていないため、生理を取り巻くタブーや神話が多く存在しています。「ナプキンやタンポンは贅沢品である」という誤った仮説が大きな障害の一つにもなっているんです。
2020年の1月に『Period.』を退き、現在は『August』での活動に専念していますが、生理に対するネガティブな印象と戦うために取り組むべき課題だと思っています。
「Period.」の運営で、自身の言動ばかりにスポットライトが当たってしまうことなどに葛藤したそうですが、そこから「August」の起業にはどんな想いがありましたか?
共同創業者と一緒に始めた『August』では、私が適切なポジションからリードしながらも、可能な限り機会を共有しています。ありがたいことに、自分で責任を持って進めていけるようになりました。
NPOで働いていたときに非常にもどかしかったのは、実際にプロジェクトに取り掛かる前にお金を集めるための活動をしなければならなかったこと。ある時すべての時間を、お金を集める活動に費やしていることに気づいたんです。NPOは依然として不平等な問題を抱えている場合が多く、私たちはその課題を解決していく必要があると思っています。
私が『August』を始めた理由は、自然に収益を生み出す成功したビジネスモデルを作りたかったから。大きなインパクトを与え、資金調達をすることで、より多くの時間を事業に費やすことができるようになると思っています。
「August」はどんな企業なのでしょうか?
生理をパワフルなものとして再定義するための、生理に関するライフスタイルブランドです。今春の終わり頃に製品を発売予定で、今はコミュニティをサポートすることに重点を置いています。
これまでの生理用品の産業は、議論されることもなく、月経は恥ずかしいものだという背景がありました。私たちの製品を通じて、こうした状況を終わらせたいと思っています。
「August」のコミュニティを立ち上げて、実際の声を聞いてどう思いましたか?
ようやく生理についてみんなとオープンに話す場ができてワクワクしています! 重い生理痛や月経周期を調整するピルなど、生理関連の魅力的な話をコミュニティメンバーからたくさん聞くことができました。
日本でも少しずつ「生理」がオープンになってきたとは言え、まだまだタブー視されています。そんな現状にどう思いますか?
生理に関しての会話が増えているのはとても心強いですが、まだまだやるべきことは山積みです。生理は人間にとって必要なもの。タブー視されるべきではないですし、「月経の衛生管理=贅沢」と考えられるのではなく、権利として知られる必要があります。
また、生理に関するイメージも総合的に変えていきたいですね! 生理は女性だけのものではなく、トランスジェンダーの人などにも関係していると理解するのは非常に重要なこと。私たちが生理に関するネガティブさを変えていく上で、誰かが差別されたり、取り残されたり、疎外されたりしてはいけないと思っています。
月経は生物学的機能であり、単なる「女性の問題」ではありません。生理は人間にとって必要なもので、とてもパワフルなものなんです!
「生理」についてフラットに話したり、タブー視しないような環境を整えるためにどんなことが必要でしょうか?
生理に関するネガティブなイメージをなくすにはジェンダーの平等や、多様性を尊重し、受け入れる姿勢といったインクルーシビティが必要です。
生理についてオープンな会話をし、自分自身はもちろん、周りの人と一緒に学ぼうとすることで、誰もが自分の役割を果たせると考えています。
今後女性をさらにエンパワーしていくために必要だと思うことはありますか?
意思決定力のある場所で、女性やさまざまなジェンダーの人々を増やす必要があると思います。現在、世界の人口の半分は女性です。これからも生殖に関する権利を求めて闘っていきたいですね。
今後の目標や夢を教えてください。
『August』のビジネスを拡大していき、生理へのケアをパワフルで包括的なものにしていくことが目標。最近ポッドキャストで『Tigress』という番組も始めたので、盛り上げていきたいですね。