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【大人の性教育vol.4】性暴力から自分を守るために知っておくべきこと|WeSAYオリジナル連載

痴漢や盗撮、同意のない性行為などの性犯罪は、被害者が長きにわたって苦しむ犯罪であり、ごく身近に起きている暴力です。予期せぬ性犯罪・性暴力被害にあったとき、またはあいそうなときに身を守るにはどうしたらいいのでしょうか。

被害を受けていても「これは性暴力なの?」「どう対応したらいいの?」と迷うことがあるかもしれません。知っておきたい法律や自衛の知識、身を守るために取るべき行動について、性犯罪被害に詳しい弁護士の上谷さくらさんにお聞きしました。今回は、性犯罪に関する法改正のポイントや性犯罪に巻き込まれないための自衛策などについて解説します。

※この記事は性犯罪・性暴力に関連する言葉や、性暴力被害の内容に触れている部分があります。フラッシュバックなど症状のある方はご留意ください。

Text:Yuko Oikawa

性暴力被害は特殊な状況で起こるものではなく、とても身近なところで起きています。国の調査では、被害女性の約13人に1人は不同意性交等(性交、肛門性交、口腔性交、又は腟・肛門に身体 の一部もしくは物を挿入する行為)をされた経験があることがわかっています。

加害者の大多数は交際相手、配偶者・元配偶者、職場の関係者など「知っている人」というのも性犯罪・性暴力の特徴です。加害者との関係では「交際相手・元交際相手」がそれぞれ16.4%と最も多く、次いで「職場・アルバイトの関係者(上司、同僚、部下、取引先の相手など)」(10.0%)、「配偶者(事実婚や別居中を含む)」(8.6%)などとなっています。

不同意性交等があった人の相談経験については、男女とも約6割の人が「相談しなかった」に該当。警察に連絡・相談した人はわずか1.4%であり、民間の専門家や専門機関(弁護士、カウンセリング機関、民間シェルターなど)に相談した人は2.9%と驚くほど少数(いずれも性別問わず)。つまり誰にも被害を相談できず、一人で抱え混んだり悩んだりしている人がとても多いのです。
出典:内閣府「男女間における暴力に関する調査」(令和5年度調査)

※不同意性交等の被害があった人に被害について誰かに打ち明けたり相談したりしたかを聞き、相談先を回答しなかった割合

一方で性犯罪被害者を取り巻く状況は少しずつ変わってきています。2023年に「性犯罪に関する刑事法」が改正。最近の性犯罪の傾向や声を上げてきた被害者の訴えが反映され新しい規定が作られました。

「性暴力の被害者は恐怖のあまり声を出せなかったり、相手との関係で抵抗できなかったりすることがあるという実態があり、被害を受けても泣き寝入りするケースが多くありました。しかし、今回の改正で“同意のない性的行為は処罰される”ことが条文として明確化されました。これにより警察による捜査はより積極的になり、加害者への処罰も強化されると考えられます」(上谷さん)

法律のこと、そして性暴力・性犯罪にあいそうなときの対処法について知識を得ておくことは、自分や周囲の人を守ることにつながります。早速チェックしていきましょう。

【1】性犯罪に関する法律はこう変わった!

2023年7月に「性犯罪に関する刑事法」が改正されました。性犯罪の成立要件がより明確になったことで、今後は被害者側に「これは性犯罪だ」と認識できる人が増え、訴え出る人も増えると考えられます。主な変更点を覚えておきましょう。

例えばこんなことも罪になる!

  1. 「イヤ」と言えなくても「不同意性交等罪」「不同意わいせつ罪」が成立
    アルコールや薬物の影響のほか、暴行や脅迫、障害、虐待、睡眠、フリーズ状態、立場による影響力など8つの原因が例として挙げられ、それによって「イヤだ」と思ったり、「イヤ」と言うこと、または「イヤ」をつらぬくことが難しい状況で性交等やわいせつな行為をされた場合には「不同意性交等罪(5年以上の有期懲役)」や「不同意わいせつ罪(6月以上10年以下の懲役)」という犯罪が成立することになりました。これらは夫婦間やパートナー間(異性、同性限らず)でも成立するということも覚えておきたいポイントです。
  2. 性的同意年齢が13歳から「16歳以上」に引き上げ
    原則として16歳未満(※)との性行為はイヤかどうかに関わらず処罰されます。
    ※ただし被害者が13歳から15歳の場合の処罰は「5歳以上」年上の相手
  3. 「性交等」の範囲が拡大
    「性交等」に性交・肛門性交・口腔性交のほか、腟や肛門に陰茎以外の身体の一部または物を挿入する行為も含まれたことで、これまで「強制わいせつ」として軽く処罰されていたものが、「不同意性交等罪」として重く処罰されることになりました。
  4. 盗撮や無断で性的な画像を拡散するのは犯罪
    性的な部位や下着を正当な理由なく、ひそかに撮影する行為、不同意性交等罪に規定されているような「イヤ」と言えない状況にさせたり、関係性を理由に脅すなどして撮影をする行為、撮影された写真・動画を人に提供する行為は、「撮影罪」「提供罪」という犯罪に。撮影された人が16歳未満の場合は、同意しているかどうかに関わらず「撮影罪」「提供罪」が成立します。
  5. 面会要求等罪が新設
    16歳未満の子どもに対して(※)性的な行為をする目的で嘘をついたり、お金や物をあげるなどと言ったりして「会うこと要求すること」「要求の結果会うこと」、また性的な写真や動画を撮って送信するように要求することは「面会要求等罪」という犯罪です。
    ※被害者が13歳から15歳の場合は、その人より5歳以上年上の人が行った時に犯罪となる。
  6. 時効の延長
    不同意わいせつ等致傷などは15年から20年に、不同意性交罪などは10年から15年に、不同意わいせつ罪などは7年から12年に延長。また、18歳になるまでは事実上、時効が進行しないことになりました。したがって、例えば12歳で不同意性交等罪の被害に遭った場合、時効が完成するのは21年後の33歳です。

参考:法務省HP「性犯罪関係の法改正等Q&A」より

【2】体の自己決定権や性的同意について知っておく

被害者が性犯罪や性暴力を訴えると「(被害者)が自分から誘ったのではないか」「嫌なら拒否すればよかったじゃないか」などと、被害者側に非難の言葉が向けられることがあります。しかし、それは明確な間違いです。

「キスまで進んだからといって、セックスまで同意した理由にはなりませんし、NOと言わなかったり、二人きりになることを許したとしても性的行為に同意したことにはなりません。夫婦や恋人間でも強引な性的行為は性暴力になります。同意が成立するためには、相手との間に力関係がなく、対等な関係にあるかどうかも重要です」(上谷さん)

大事な2つのことを覚えておきましょう。

  1. 自分の体のことは自分で決める
    自分のからだのことを自分で決定する権利のことを「体の自己決定権」と言います。いつ、どこで、誰とどのような性的関係を持つかを決められるのはその人自身です。相手が嫌がっているのに、思い通りにしようと無理強いするのは暴力です。
  2. したいと思った側が相手に同意を取る
    ハグ、キス、セックスなどの性的行為の際に、お互いが積極的にしたいかどうか気持ちを確認することを「性的同意」と言います。行為一つひとつに同意を取ることや、嫌ならいつでも断ることができること、判断能力がある状況で互いに性的行為をしたいと思っているかを確認するなど、性的同意は「したい」と思った側が言葉で明確に同意を取るというのが、基本的なルールです。性的同意について正しい定義を社会で共有し「被害者は悪くない」と示せる社会を作っていきましょう。

【3】災害と同じ「備えあれば」で「自衛手段」を知っておく

「性犯罪において、悪いのは加害者。被害者が自衛しなければならないのはおかしいという声もあります。しかし残念ながら、いつの時代も加害者は一定数いるものです。性犯罪に巻き込まれないためには、そのことを前提に自分を守る方法を知っておくことが大切です」と上谷さん。

最近は、知人とお酒を飲んでいて飲み物に睡眠薬を入れられ、知らない間に乱暴されたなど、お酒や薬物を使った性犯罪も増えています。以下に日常生活で取り入れると良い自衛策をまとめました。上谷さんは「普段から習慣にすることで、身を守る行動が自然に身につきます」とアドバイス。備えておきましょう。

  • 合コンや飲み会などで席を外す場合は、飲み物を飲み干してから席を立つ。席に戻ったら新しい飲み物を頼む。ドリンクを置いたまま席を立つのは危険。他人が準備した飲み物・食べ物を口にしない。薬物等を入れられるのを防ぐため。
  • マッチングアプリなどで出会ったばかりの人と、個室で二人きりにならない。
  • 夜間の「歩きスマホ」や音楽を聴きながらなどの「ながら歩き」はしない。スマホの灯りが性犯罪者を引き寄せる誘導灯になる可能性があるし、怪しい気配に気づくのが遅れるため。
  • エレベーターでは非常ベル等のボタンが押せる位置に立つ
  • オートロックマンションでもドアの施錠をする。就寝時は部屋の窓を必ずしめる。
  • 通学・通勤時の痴漢対策として、ドア付近などの混雑の激しい場所を避ける。電車では、毎日同じ時間、同じ車両に乗らないようにして、時間や車両をずらす。毎日同じ行動をしない方が狙われにくくなる。
  • 盗撮防止のため、エスカレーターは横向きに立つか、不自然に背後でスマホの操作をしている人がいないか警戒を。
  • 警視庁アプリ「Digi Police」の痴漢撃退機能や防犯ブザーを利用できるようにしておく。

お話を伺ったのは…… 上谷さくらさん
弁護士、犯罪被害者支援弁護士フォーラム事務次長、保護司。青山学院大学法学部卒。毎日新聞記者を経て司法試験に合格。2007年弁護士登録。専門は犯罪被害者に関する刑事事件・民事事件。特に性被害、DV、ストーカー、交通死亡事故に関する事案が多く、ほかに離婚・相続等の家事事件、破産、企業法務、不動産関係など幅広く取り扱っている。法務省の刑法改正に関する刑事法検討会委員(2020年〜21年)。近著に2023年刑法改正に対応した『新おとめ六法』(KADOKAWA)がある。


【大人の性教育vol.1 】将来の選択肢を広げるために「卵子凍結」について知っておきたいこと
【大人の性教育vol.2 】男性更年期障害について知っておきたいこと
【大人の性教育vol.3】性感染症の現状と予防の知識、身を守るためにできること

【大人の性教育vol.5】性暴力にあったときに取るべきアクション

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