※本記事は2022年4月10日にCosmopolitanで掲載されました。
夫婦やパートナー間において、妊娠や出産が与える影響は少なくないもの。昨今では、産後の夫婦関係の変化による危機的状態を表す「産後クライシス」という言葉を耳にすることも。
産後クライシスと聞くと不安やネガティブなイメージが先行してしまうけれど、事前に正しい知識を身につけ、準備しておくことで回避できることもあるのだとか。
本記事では、思春期・カップル・家族専門のカウンセラーのよしおか ゆうみ先生に、産後クライシスになる原因や予防法などを伺いました。
産後クライシスの原因
「産後クライシス」とは、2012年にNHKが提唱した用語で、出産後から約2〜3年の間に夫婦仲が悪化してしまう現象のこと。子どもを持つ前までは円満でも陥ってしまうこともある産後クライシス、その原因とは…?
「『子どもを産む』というのは命がけのことでもあり、大きな使命に挑む時期なので、色々と戸惑いや変化が大きくなるんです。思い描いていた結婚生活を幸せに送ってきた人たちの中には、急に現実を突きつけられ、そのギャップに追いつけなくなってしまう人もいます」
また、この時期は一般的に「男女間の違いが浮き彫りになりやすい」と、よしおか先生。女性は妊娠してからも自分自身で体の変化を感じていることから、「これから子どもを産むんだ」という覚悟や不安など、さまざまな感情が湧いていくそう。 一方で男性はどうしても子どもを産むことができないので、女性と違ってなかなか“親になった”という自覚が持ちにくい部分も。
さらに、女性は子どもが生まれるとオキシトシンと呼ばれるホルモンが分泌され、母性的な本能が高まることも。すると、夫への関心が薄まったり、中にはホルモンの影響で夫に対して攻撃的になってしまう場合もあるのだとか。その結果、夫はこれまでに見たことがない妻の姿に驚き、その変化に追いつけなくなってしまうよう。
そして、出産した直後はホルモンバランスの変化により、女性はそもそも性欲が起きにくい仕組みになっているため、セックスレスが関係性を悪化させてしまうことも。
「女性の体の変化を事前に正しく理解していないと、男性側は『まだ我慢しないといけないの?』という気持ちになってしまいます」
「逆に『どうしてこんな大変な時期に迫ってくるの』と女性側が拒否すると、今まで仲良くしていたのに“お互いにもう愛情がない”と感じ、どんどん溝が深くなってしまうんです」
産後クライシスになりやすい夫婦の特徴
これまで、産後直後や2~3歳の子どもを持つ夫婦から相談を受けたよしおか先生によると、以下のような特徴がみられるそう。
- 対話が苦手、成立しない
- 将来設計について考えたり、話し合ったことがない
- 妊娠中に子育ての準備をしていなかった
- 対等な夫婦関係を築いていない、築けない
- 世間の評価や承認を気にしすぎる
産後クライシスにならないためにできること
それでは、産後クライシスにならないようにするためには、どのようなことを心がけるといいのでしょうか?
よしおか先生によると、「産後どのような変化が訪れるのかを把握し、問題が起こったときの対処法を事前に知っておく」ことが大切だと言います。
結婚前・新婚時、妊娠中、産後ごとの事前にできることは以下の通り。
結婚前・新婚時
- 結婚や子どもを育てることに対する覚悟を持つ
- 価値観のすり合わせをし、お互いを理解する
- 性欲の違いを理解しておく
- 自分が思うパートナーシップ像を共有する
- 自治体開催の講座やカップルカウンセリングなどがあるのかを確認しておく
- 「おはよう」「ありがとう」「ごめん」など基本的な挨拶は意識して言う
- 職場の立場が変わったり病気になったりなど、お互いの変化を受け入れる余裕を持つ
妊娠中
- 産前産後にどのような変化があるか知識をつける
- 妻のお腹に声をかけるなど、夫は「育児は妊娠中からスタートしている」という意識を持つ
- 子育ての見通しや長期的なキャリアなどをすり合わせる
- それぞれの職場に子育ての理解と協力を得る
産後直後
- 親以外に、いざというときに頼れる人を作っておく
- 夫は妻の肉体的・精神的な負担を減らす
子どもが2~3歳頃
- お互いに子どもから離れる時間を作る
- 柔軟に仕事時間を確保し合う
- 性生活を工夫して、セックスレスを回避する
- 着替えやおむつ替えなど、夫ができることを増やしていく
産後クライシスになったときの対処法
産後クライシスは事前に対策ができるとはいえ、実際は思うようにいかないこともあるはず。そこでよしおか先生に、もし産後クライシスになってしまったときにできることを伺いました。
- 結婚生活における不平等感をなくす
育児や仕事に限らず、この先どちらかが体調を崩してしまうことも。どちらかが大変な時期には、もう一人が支えるという考え方が大切。 - 「こういう日もある」「足りないところがあって当然」と思う
他の夫婦と比べず、現実から物事を考えるようにしましょう。 - 明るい挨拶や感謝の言葉を大切にする
よしおか先生によると、毎日「ありがとう」や「お疲れさま」と伝えていると後から幸せが倍になって返ってくるそう。仲の良い夫婦ほど自然にそして数多くの言葉をかけあっており、たとえ喧嘩していても挨拶をするのが重要なのだとか。
- 夫と子どもの触れ合う時間を増やす
男性も子どもと触れ合うことでオキシトシンが出るので、ミルクあげたり抱っこするなど子どもと触れ合う時間が多いほど、より家族に目が向くようになるそう。 - 妊娠中や出産後の気持ちを伝える
妊娠にまつわることはどうしても男性にはわかりづらい部分があるので、細かなことでも伝えるようにしましょう。 - 感情的にならず、一度落ち着いてから物事を伝える
- ライフステージが変化することを楽しみ、成長を感じる
- 他の家庭と比較せず、自分たちの取り柄やこれまでの努力を認める
「女性は特に、他の家庭と自分の家庭を比較してしまう傾向にあります。そのため、自分たちの家族の強みにフォーカスすることが大切です」
最後に
夫婦仲を円満に保つためには、お互いの気持ちを尊重したりと、コミュニケーションをしっかりととることが不可欠。最後に、産後クライシスに不安を感じている方に向けてメッセージをいただきました。
よしおか先生からのメッセージ
みなさん、産後に変化が訪れてから初めて対処することがほとんどで、さらに妊娠前・妊娠中の人は産後クライシスに対する“恐怖”もあるかもしれません。ですが、新婚時や妊娠中から「今後起こる変化」を事前に知り準備をしておくと、その不安な気持ちも和らぎます。
子育てや仕事でも、すごく大きな変化が訪れると危機を感じることがどうしても多くなりますよね。そういうときはまず挑んでみるのが大切で、自分がより豊かになって今までに味わったことのない幸せを感じる機会でもあるので、むしろその変化を楽しんでほしいです。
子育ては日々大変なことだらけですが、それを忘れるほどの感動があります。仕事で成功することと同様に、子育ては自己実現の場でもあるんです。なのでまずは、子育てを通して感じられるやりがいを中心に考えて、どっしりと構えましょう。
産後クライシスと聞くと、誰もが“100%不仲になる”と考えてネガティブに捉えがち。でもほとんどの人がその対処法を知らないだけなんです。対処法を知って乗り越えられれば大丈夫ですので、パートナーと良い関係性を築いていってくださいね。