※本記事は2021年7月8日にWomen's Healthで掲載されました。
自然妊娠・分娩は珍しくなり、不妊治療や帝王切開が増加。昨今、女性の妊娠・出産事情は、目まぐるしく変化している。そこで今回は、助産師として23年の職歴を持ち、山口県の助産院「ぽわんと」代表の保健師・助産師で自力整体ナビゲーターの山井裕子さんに、妊娠・出産の時代による変化について伺った。
女性の体の変化は「生活習慣」が変わったことが原因
「私が助産師を始めたころに比べ、妊娠・出産のトラブルは増えているように感じます。具体的には、以下のような現象が増えていますね」と山井さん。
- 不妊治療、帝王切開の増加
- 産後不調の増加
- 胎児の体のねじれ、発達の遅れ
これらの大きな原因として挙げられるのが、背筋力と腹筋力の低下、骨盤歪み。これらの問題は、日本人の生活習慣が起因しているという。
「昭和初期に比べ、日本人の生活は著しく変化しました。椅子に座る時間が増えたり、重いものを持たなくなったり、さまざまなことが変わっています。それにともなって、背筋力と腹筋力は衰え、骨盤が歪み、自分の体をしっかりと支えられない人が増えてしまったのです」
背筋力が低下すると体の歪みにつながり、腰痛、頭痛、肩こりを増加させる。背中が硬くなると呼吸が浅くなり、内臓が支えられず、内臓下垂や便秘になるなどの体の不調が起きるという。さらに、背筋力がないと子宮を支えることができず、子宮下垂、切迫早産を起こしやすくなり、胎児を出す力がなく、難産になりやすくなる。また、腹筋は出産の際、いきむときにとても大切だ。それらの筋力の低下は育児中にも影響を及ぼす。抱っこが長時間できなかったり、腱鞘炎、授乳困難などの問題を抱えている女性も多い。
また、骨盤の歪みは、生まれてくる子供の体のねじれや発達の遅れにも影響するという。骨盤が歪むことで肋骨との隙間が狭くなり、妊娠中に胎児が押し付けられて育ってしまい、背骨や首に影響が出る可能性がある。
これらの現象は、おもに2つの変化が原因だという。
生活様式の変化①しゃがむ姿勢の減少
- 和式トイレ→洋式トイレ
- 地べた(畳など)に座る→椅子に座る
- 布団→ベッド
- 重いものを持つ→持たない
- たらいで洗濯→洗濯機
「昭和初期は畳の家が多く、床に座ったり、立ったりする動作を1日何度も行っていました。また、和式トイレでしゃがむ、洗濯や雑巾掛けをしゃがんだ状態で行うなど、普段の生活にスクワットが自然と取り入れられていました。しかし、現在の私たちの生活では、生活のなかでしゃがむ動作は減っています。みなさんは、1日に何回“しゃがんで立つ”という運動をしているでしょうか?」と山井さん。
ベッド、椅子、洗濯や掃除の動きを見ても、立った状態で行うが多く、ヒザの曲げ伸ばしや背筋を使った動きは少ないはず。この生活習慣の変化が、私たちの背筋力低下に大きな影響を及ぼしているのだ。
生活様式の変化②椅子の使用
畳からフローリングになり、椅子に座る生活が当たり前になった昨今。また、女性の社会進出が進み、オフィスで働くようになったことで、椅子に座る時間は増えている。「もともと人間の体は長時間座るようにできていませんが、オフィスではそうも言っていられませんよね。1日8時間くらいは座っている、という人も多いでしょう。しかし、長時間椅子に座ることは、下記のような問題を引き起こします」
- (長時間椅子に座ることで)骨盤が歪む
- 骨盤の歪みからくる姿勢の悪化
- 肋骨と骨盤の距離が縮み、お腹のスペースが狭まる
- 尾骨が押しつぶされて内側に入ってしまい、産道を狭くする
長時間「座る」という状態は骨盤の歪みを作る原因に。骨盤が歪むことで胎児が育つお腹が狭くなり、窮屈になってしまう。それによって、胎児の体の歪みや発育障害を引き起こす可能性もある。
出産後のスマホ・PCの見過ぎで骨盤が歪む⁉
電子機器の光を長時間目に入れるという行為も、出産困難の要因となりえる。「目に光を入れることが妊婦さんに悪影響を及ぼすことは、昭和以前から知られていました。とくに夜にスマホやパソコンを使用したり、メガネやコンタクトを四六時中着用していると目を緊張させ、交感神経が優位になりリラックスができない状態が続きます。そのことで、出産に重要な骨盤の動きを制限してしまうのです」
また、ブルーライトは産後の体の回復にも悪影響を及ぼすという。「出産後は骨盤が開き(正確には左右の仙腸関節が開く)、ゆっくりと時間をかけて出産前の状態まで戻ります。ところが、スマホなどで目に光を入れると、骨盤は急激に閉じていき、左右対称に閉じないのです。急激に骨盤が締まると骨盤が歪み、体がバランスを保とうとするために背骨が歪みさらなる不調を起こしてしまいます」
実は、昭和初期までは、産前産後に光が目に入らないよう、暗い部屋で過ごすことが通常だった。「昭和初期までは、産前産後数日は産屋という暗い離れ屋で妊婦さんは過ごし、目や体を休めていました。それが日本人の経験から生まれた知恵だったのです。産婦人科で出産することが主流になっても、しばらくは入院部屋ではテレビのコンセントを抜き、出産後はできるだけ目と体を休めることが普通でした。しかし、最近ではそういった習慣もなくなり、出産直後からスマホを触れる状態。ぜひブルーライトが出産に与える影響を女性に知ってもらい、目と体を休める習慣を取り入れてほしいですね」と山井さん。
現代女性が元気な赤ちゃんを産むために大切なこと
- 普段の生活からしゃがむことを意識し、背筋と腹筋を鍛える
- 体の歪みを整え、生理痛やPMSや月経不順のない体を作る
- 目を休ませて自律神経を整え、リラックスする時間を作る
現代の生活様式を大きく変えることはできないが、変化の原因に気づくことで改善点が見えてくる。そして上記の3つのことを普段から意識することで、必ず体にいい変化が起こるはず。
自力整体で骨盤の歪みと自律神経を整えたり、ヨガ、ピラテスやフィットネスで普段の生活に運動を取り入れ、赤ちゃんがお腹の中で健やかに育ち、楽に出産や育児ができるからだ作りを日々行っていこう。
お話を伺ったのは……
山井裕子さん
助産師歴18年、保健師歴3年。延べ6万人以上の妊産婦、赤ちゃん、女性のケアに携わる。女性の一生に寄り添いたいという想いから2021年1月『助産院ぽわんと』を開業。