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妊娠・出産・中絶など、性にまつわる女性の人権を考える映画6選

※本記事は2023年3月8日にELLEで掲載されました。

90年代半ばに提唱された 「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(Sexual and Reproductive Health and Rights=SRHR)」とは、「性と生殖に関する健康・生命の安全」を権利としてとらえるもの。女性の生涯を通じて起こる様々な問題──思春期のセックス、生理と貧困、妊娠・出産・中絶の決定権、不妊、性感染症、更年期障がい、性暴力や買売春など──において、女性の人権の一部として、近年ではさらに注目を集めている。

女性の権利だけれど今までタブー視されがちだったことについて、最近では映画のなかでの描かれ方が変わってきている。今回は、そんな「SRHR」を考える映画6本を渥美志保さんがレビュー。

 

『あのこと』(2021)

1960年代、貧しい階級に生まれながら、高い知性と努力によって大学に進学したアンヌ。ところが学位取得のための試験が目前に迫る中、予期せぬ妊娠が発覚。人工妊娠中絶が違法だった時代、夢と未来を諦めることができないアンヌは、自身の手で中絶を試みる……。

本年度のノーベル文学賞を受賞した作家アニー・エルノーの実体験を描いた短編『事件』の映画化。国や法律はもちろんのこと、誰ひとり助けてくれない、味方にすらなってくれないという状況の中で、信じがたい恐怖や痛みと戦うアンヌの強さに驚愕し、自分の体についての自分のための決断なのに、これほどまでしなければいけないことに怒りを覚える。いったん妊娠してしまったら、その他のあらゆる選択肢は根こそぎ奪われるという状況、そして女性の妊娠中絶のみが「ふしだら」「自分勝手」などと非難される状況は、実のところ今もほとんど変わらない。
 

『セイント・フランシス』(2019)

大学を中退、レストランの給仕という今の仕事にうんざりの34歳独身のブリジットは、短期の仕事として夏休みの子守りの仕事を見つける。そのお相手は、あるレズビアンカップルの一人娘で、これ以上ないほどやんちゃな6歳児フランシス。案の定、彼女はぶんぶんと振り回され……。

映画は一見、やんちゃな子供を軸にしたコメディの様に始まるが、30代半ばのブリジットはフランシスとの出会いと前後して妊娠中絶していて、その一方で母親からは「子供を」と言われるし、第二子を出産したばかりのフランシスの母親は、産後と育児で鬱に陥っている。映画には女性をとりまく様々な生きづらさが描かれているが、そんな中でも彼女たちが連帯し、フランシスが体現する自由を「最も尊いもの」としていることに、何よりも勇気づけられる。

 

『17歳の瞳に映る世界』(2020)

自分が妊娠していることを知った高校生のオータムは中絶を考えるが、地元のペンシルバニア州では未成年者は親の同意なく手術することができない。親の同意が必要ないニューヨーク州で手術することを決めた彼女は、従妹で親友のスカイラーとともに金をかき集め、ニューヨークに向かうが……。

妊娠は性暴力の結果であったことがほのめかされているのだが、そうした当事者の経緯に全く関心を示さず、「妊娠は聖なるもの」「中絶は恐ろしいこと」と出産への圧力を与える社会に底寒さを覚える。アメリカでは50年前に出た中絶に関する権利が、2022年の最高裁で覆され、望まぬ妊娠を中絶するための越境は後を絶たない。あらゆる場所で彼女たちが晒されるさまざまな性的要求やハラスメントが淡々と描かれる様も戦慄。これまで映画では「妊娠中絶=悪いこと」のように描かれてきたが、この映画でそれが「安堵」や「救い」として描かれるのは、彼女たちが晒されている世界のあまりのひどさゆえ。

 

『モロッコ、彼女たちの朝』(2019)

「家政婦として雇ってほしい」と現れた臨月の若い女サミアに、数日だけのつもりで寝る場所を与えたシングルマザーのワルダ。やがてワルダが営むパン店を手伝うようになった彼女は、夫の死で固く閉ざされたワルダの心を溶かしてゆくが……。

イスラム教の社会で婚外子を産むということがどれほど忌み嫌われることなのか、この映画を見るとその一端が垣間見える。婚外子を身ごもったサミアは、下手をすれば野宿するハメになるかもしれないのに路上をさまよっているし、ワルダも当初は決して彼女を家に入れようとしない。周囲から何を言われるかわからないからなのだ。欧米の作品ならば「シスターフッドが二人を強くする」といった結末を迎えるのだろうが、このラストには女性が「選べないこと」の悲劇と、イスラム社会で女性が強いられるものの根深さを感じずにはいられない。

 

『タリーと私の秘密の時間』(2018)

長女と障がいを持つ長男に続き3人目を出産し、誰の手も借りずにこなしてきたワンオペ育児にいよいよ限界を感じたマーロは、夜だけのベビーシッターを頼むことに。やってきたタリーは自由奔放なイマドキ女子。だが夜中の子供の世話にとどまらない完ぺき以上のその仕事ぶりに、マーロは久しぶりにかつての生気を取り戻してゆくが……。

家事と育児にボロッボロの妻にまったく気づかない、「パッと見優しい夫」の恐るべき無神経さに唖然。誰かに頼ることになれていないマーロは、仕事も家事も育児も完璧にこなしてきた女性の典型。あらゆる面倒が際限なく押し寄せ、終わりがないかのように繰り返される子育ての日々の怒涛っぷりたるや。出産後、時に数か月も続くこともあると言われる「産後うつ」は、慢性的な疲労やストレスのほか、出産時の急激なホルモンの変化などにも原因が。彼女を癒してくれたタリーが何者かが分かるラストには涙しかない。

 

『マギーズ・プラン 幸せのあとしまつ』(2015)

幸福な母子家庭で育ったマギーは、いつも男性と長続きせず、それでも子供を持つために、学生時代の友人に精子提供してもらうことに。そんな中、同じ大学で働く妻子持ちの学者ジョンと恋に落ち、一人娘を授かる。数年後、ジョンの小説家への転身を支える結婚生活にモヤるマギーは、親しくなったジョンの元妻ジョーゼットとともに、ある計画を実行することに……。

「良かれと思ってトンチンカン」というマギーの右往左往は、一見シャレたラブコメディに見えるのだが、結婚の性別的役割分担にモヤるマギーに、ジョンが「君がそうしたいと言った」と言う場面や、マギーが元妻に「おふたりの結婚では、あなたの自分勝手によってジョンの自分勝手が抑えられていたのでは」という場面は、なかなかのキレ味。実際「結婚はイヤだけど子供は欲しい」という女性は意外といると思うのだが、全ての女性がマギーほど正直に生きられる社会になるには、まだまだ時間がかかりそうな。

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