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妊娠・出産はなぜ女性だけの責任になるの? 望まない妊娠が引き起こす悲劇への疑問【自分らしくいるためのおとめ六法】

女性のための法律書『おとめ六法』の著者で弁護士の上谷さくら先生が、法的な目線でガール世代の恋愛やお仕事など日常のお悩みを解決していきます。

今回は、望まない妊娠や出産について先生に聞きました。

<質問> 赤ちゃんを死なせてしまったら罪に問われるのは女性だけ?

若い女性が一人で出産し、パニックになって赤ちゃんを殺害。その死体を遺棄したことによる逮捕の報道を目にします。妊娠は一人ではできないのに、女性だけが罪に問われるのはどうしてでしょうか。

緊急避妊薬や中絶手術へのアクセスの悪さ、性教育の不十分さなど、さまざまな要因がありますが、果たしてそれは女性だけの責任なのでしょうか。

<回答> 父親の関与がなければ出産する母親の責任に

母親が自らの手で子を殺害すると「殺人」、出産時に子を置いて逃げると「不作為の殺人」もしくは「保護責任者遺棄・致死」に問われる可能性があります。気絶などの理由で母親が倒れてしまい、子が亡くなっているのにも関わらず放置したら「死体遺棄」に問われます。これらは母親に課せられるもので、父親がそもそも妊娠を知らなかったり、子が亡くなることに積極的に関与していなければ罪に問われません。(上谷先生)

望まない妊娠・出産をひとりで抱えるツラさ

portrait of sickness woman sitting alone on the bed in the bedroom self isolation herself during coronavirus pandemic outbreak
Boy_Anupong / Getty Images

子どもを産むか産まないか。自分の状況や将来を考えたときに、出産を希望しないこともあるでしょう。また、トラブルに巻き込まれてしまったために、予期していなかった妊娠が発覚してしまうことも。

誰にも話せずにひとりで産むしかない環境で、赤ちゃんの身になにかあったとき、罪に問われるのは母親であるその女性です。ただでさえ心身の健康が不安定な時期なのに、不安や悩みを抱えたまま命の責任を持つことは、想像もつかないほど暗く辛いものでしょう。

そんなとき、もし、相談できる相手が近くにいたら? もし、もっと早く妊娠に気づいていたら? 最適解を導き出せたかもしれません。

赤ちゃんを遺棄したときに問われる罪

judges desk in court room
Peter Dazeley / Getty Images

母親が出産した子を自らの手で殺害してしまうと「殺人」、出産時に子を置いてその場から逃げてしまうと「不作為の殺人」もしくは「保護責任者遺棄・致死」に問われます。

不作為の殺人とは、自ら手を下すのではなく、赤ちゃんのお世話を何もせずに死なせてしまう殺人のこと。子を置いた場所が、人通りが少なく、誰にも助けられないような状況なら、不作為の殺人になる可能性があります。一方で、誰かが赤ちゃんの泣き声に気付きやすいような平日の病院や孤児院の前であれば保護責任者遺棄にあたる可能性があるようです。

さらに、出産で母親が出血などの理由で気を失ってしまい、目が覚めたときに亡くなった子をそのまま放置すると、「死体遺棄」に。赤ちゃんが放置された環境や状況によって、問われる罪も変わります。

上谷先生によると、母親がどこにも相談できずにひとりで出産し、赤ちゃんの身になにかが起きたとき、罪に問われるのは女性だけとのこと。子を遺棄してしまう事件のほとんどは、そもそも父親が妊娠の事実を知らなかったり、すでに連絡が取れないことが多いようです。

正しい知識を身につける必要性

woman holding smartphone and biting nails
Jamie Grill / Getty Images

このような状況を作り出してしまう要因として、正しい知識にアクセスできないことが背景にあると考えます。

たとえば、義務教育で習う性教育。海外の水準と比べてみると、日本では学習範囲が制限されていて、学校の知識だけでは十分と言えません。

教える側にいる大人たちのなかにも、本や動画などのフィクションから得たあやふやな知識や男性優位のセックス観しか持ち合わせていない人も大勢いるでしょう。「自分の体は自分のものだ」「相手の意思をリスペクトする」という性教育は人権意識にもつながるので、子どもだけではなく、大人こそ学び直す必要があると思います。

また、相談しやすい相手がいなかったり、そもそも誰に相談していいかすらわからないケースも。父親がわかっていれば「妊娠したけど、どうしよう?」と相談しやすい環境にありますが、父親が誰かわからない、関係をもった後に音信不通になってしまったという場合は話を持ち出すこともできません。悩んでいるうちに中絶(人工妊娠中絶)もできない時期(妊娠22週未満)になってしまい、産んでも育てられないから逃げて殺すしかない、と追い詰められてしまうのです。

インターネットで検索してみると、妊娠や出産の悩みごとを相談できる支援団体や各自治体のホットラインがヒットします。匿名で相談や、LINEに対応しているところもあるので、どんな些細なことでも、不安や悩みごとがあればまずは話してみてほしいです。第三者だからこそ、知っている人よりもかえって話しやすいかもしれません。

たとえば、以下のような窓口があります。

東京都 妊娠相談ほっとライン東京都に住んでいる方を対象に、電話やメールで妊娠や出産の相談ができます。
こうのとりのゆりかご熊本市で運営する「慈恵病院」の相談員に、望まない妊娠について電話かメールで相談できます。電話は24時間対応。
 

ハードルの高い中絶

初期の段階で妊娠に気づいたとしても、父親がわからなければ中絶のハードルが高くなります。中絶手術を行うためには、「母体保護法」によって本人と配偶者の同意を得る必要があるのです。性暴力による妊娠で中絶を希望したのに、加害者の同意がないと手術を断られてしまうケースは今でもあるそう。

結婚していた場合は、配偶者の同意が必須。夫が出産を求めていても妻が産みたくないのであれば、そこにはなにかの事情があるはず。配偶者の同意が必要なのは先進国でも日本だけであり、実態にともなった制度の見直しが求められています。

自分の人生を歩むために情報を知っておこう

overhead view of woman working from home
Justin Paget / Getty Images

生まれてくる赤ちゃんは、なにも悪くありません。私たちはもっと自分の体を知って、正しい知識を身につけていくことが大切だと思います。性暴力などのトラブルに巻き込まれてしまったり、妊娠しても産めない事情があるときは、ひとりで悩まずに信頼できる周りの人に相談を。それが難しければ、専門家や医師、相談窓口へ連絡してみましょう。知らない人だからこそ、話せることもあるはずです。

また、法律は知っている人しか守ってくれません。すべての法律を覚える必要はありませんが、違和感を覚えたときや困ったときに、本やインターネット、専門家に聞くなど、調べる習慣をつけておくとよいと思います。

あなたの人生は、あなたのもの。自分らしく生きていけるために、正しい知識や法律を味方につけていきましょう。


おとめ六法
KADOKAWA

『おとめ六法』(上谷さくら、岸本学著・KADOKAWA刊)

憲法・刑法・民法といった六法から、女性の一生に寄り添う法律を抜粋し、恋愛や仕事、SNSなど、女性の身に起こり得るあらゆるトラブルへの対処法をまとめた実用書。現代社会を生きるすべての女性の味方となる一冊。

 

 

 


弁護士 上谷さくら先生

上谷さくら先生

弁護士(第一東京弁護士会所属)。犯罪被害者支援弁護士フォーラム事務次長。第一東京弁護士会犯罪被害者に関する委員会委員。元・青山学院大学法科大学院実務家教員。福岡県出身。青山学院大学法学部卒。毎日新聞記者を経て、2007年弁護士登録。保護司。

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