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Women's Health

高齢者だけのものじゃない? 女性に多い「認知症」を取り巻く問題

※本記事は2023年11月16日にWomen's Healthで掲載されました。

「認知症なんて、80歳になってからかかるものだと思っていました」。これは今年7月、アルツハイマー病と診断されたことを明かした英国のアナウンサー、フィオナ・フィリップスの言葉。「でも、私は61歳という若さで認知症になりました」
ブレインフォグと不安に何ヶ月も苦しんだ末の診断には憤りを感じた。60代の女性の多くは、仕事や家庭、趣味などで忙しい。「だから私は(認知症を)気にかけず、いつも通りにしています」と『The Mirror』誌に対して語ったフィオナ。
「仕事をやめて暇を持て余したり、1日中テレビを観たりしたくはありません」
一般的にアルツハイマー病は他の種類の認知症と同じく晩年の病と考えられているため、その病が現役の中年女性を襲う可能性があると聞けば驚く。でも、認知症患者に関する最新の人口統計データを見る限り、そのようなケースは意外と多い。
現代の病の中でもとくに悲惨なアルツハイマー病は女性に多い。英国では患者の3人に2人が女性で、昨年は女性の最大の死因だった。その上、60歳以上の女性のアルツハイマー病の発症率は、この病とは比べものにならないくらい認知度とサポートが充実している乳がんの約2倍。
このあからさまな男女格差は、英国の認知症患者サポート団体Dimentia UKが「隠れた集団」と呼ぶ“若年性”認知症の患者の中にも見られる。認知症治療に関する学術誌『Journal of Dementia Care』掲載の論文によると、若年性認知症の患者数は7万800人(2022年9月)で、全認知症患者数の7.5%を占めている。
65歳以上(認知症がもっとも多い年齢層)の女性にとって、認知症の診断が大きなショックであることは言うまでもないけれど、それより早い段階で、苦労の末に手にしたキャリア、忙しい家庭生活、充実したソーシャルライフの記憶が消えていくと言われた人が受ける衝撃は、どれほどのものだろう。認知症の患者数は2030年までに94万4000人から100万人以上に急増するとされている。そのニュースが大々的に報じられる一方で、この病が女性に多いという重要な事実はあまり周知されていない。認知症で苦しむ女性に対する理解やサポートが一向に進まないのは一体なぜか? イギリス版ウィメンズヘルスから詳しくみていこう。

equal rights for man and woman
filmfoto / Getty Images

認知症患者の男女比

通常の職業的および社会的機能に支障が出るほど認知力、思考力、記憶力が低下する認知症には、複数のタイプがある。もっとも一般的なタイプはアルツハイマー型で、全世界の認知症例の70%を占める。その次に一般的なパーキンソン病認知症とレビー小体型認知症は全体の20%を占め、男性にやや多い。残りの10%は血管性認知症と前頭側頭型認知で、前者は男性にやや多いけれど後者は男女間の差が少ない。
「この4つのタイプの認知症は、脳細胞の異なる問題に原因があり、異なる症状を引き起こします」と説明するのは神経学者のジェイムズ・グラトウィック博士。「例えばアルツハイマー型認知症は、アミロイドというタンパク質が原因となって記憶力に影響を与えますが、パーキンソン病認知症はαシヌクレインという別のタンパク質が原因となって判断力に影響を与えます」
英政府の国民保険サービス(NHS)に属するセント・トーマス病院と、民間医療サービスHCA Healthcare UKに属するロンドンブリッジ病院の両方で働くグラトウィック博士によると、女性の患者数は男性の2倍で、最近は30代~50代の人々が認知症に対する警戒を強めている。
「若い認知症患者を目にする機会が増えているわけではなく、社会全体として数十年前より健康に関する理解が進んでいます」とグラトウィック博士。「最近は、なにかおかしいと思ったらすぐに助けを求める傾向が強くなっている、つまり、問題が早い段階で見つかるということです」
科学の進歩によって、認知症を未然に防げる可能性も高くなっている。2022年には認知症の初期兆候を診断の9年前に見つけられる可能性があることを示す研究結果が発表され、今年に入ってからは30代で受ける聴力検査が脳機能低下の早期発見につながるという論文も発表された。

elderly man
Westend61 / Getty Images

認知症の症状と診断

でも、認知症になるのは高齢者だけという誤った認識は、65歳未満の人の診断を遅らせる。NHSのデータも、更年期の女性は認知症の診断に2倍の時間がかかることを示している。Dementia UKで若年性認知症を担当する認知症認定看護師のジュール・ナイトによると、集中力や記憶力の低下を引き起こすブレインフォグは、更年期の女性にも多く見られる問題。
更年期障害は、57歳でアルツハイマー病と診断されたジュード・ソープが劇場の舞台主任としての大事なタスクを忘れてしまうようになっても、病院に行くのを躊躇った理由の1つ。「あのときは自分がなにをするべきなのか分からず、パニックに陥りました」と現在60歳のジュードは話す。「本当に恥ずかしい思いをしました」
パートナーのベッキーに背中を押されて病院へ行ったものの、認知症の診断を受けるまでに5年かかり、病院を3度も変えた。「最初はショック状態でしたし、昔からアクティブで自立したタイプだったぶん、それまでのやり方を変えるのにも時間がかかりました」とジュードは続ける。「自分が誰だか本当に分からなくなり、悲嘆に暮れる日々でした。人生が一変し、周囲の人は、当時10代だった2人の娘を含めてみんな、私が介護施設に運ばれると思っていました。とても現実のこととは思えず、不安な気持ちでいっぱいでした」
クロエ・ハーヴェイ(26歳)の母親の症状も、最初は更年期障害のせいにされた。気分のむらや慢性的な物忘れで、自分の問題を正確に伝えることが難しくなっていた。「複数の病院を行ったり来たりで、診断に1年を要しました」とクロエ。「鉄欠乏症とも、うつ病とも、甲状腺疾患とも言われましたし、“女性の問題”で片付けられることも多かったです。それで診断が遅れました」。そして2018年、大学で授業を受けていたクロエは、記憶力テストと脳スキャンの結果、若干53歳の母親が早発性アルツハイマー病と診断されたことを父親からの電話で知った。
「幼い頃から母は私のすべてでしたし、アルツハイマー病が治る病気ではないことを知っていたので、絶望感に襲われました」。州の助成制度が一切ないことを知ったクロエは実家に戻り、母の介護に3年を費やした。「そのせいで20代を好き勝手に生きられなかったのは確かです」とクロエは話す。「でも、母と過ごせる時間は限られていましたからね」

crying senior woman holding her face being comforted
Juanmonino / Getty Images

入り乱れるエビデンス

ウィメンズヘルスが話を聞いた認知症の専門家たちは、この病の性差に対する理解こそが効果的な治療法の特定につながると考えている。でも、女性の体に関するデータは非常に少ない。多数の臨床試験結果を対象とした2018年の分析では、試験データの72%に性別ごとの分析が含まれていなかった。「女性の罹患率が高いのは女性のほうが長生きするから、という声は多いですね」と話すのは、米メイヨークリニックの神経学者アマール・スターリング博士。確かに、女性の平均寿命は82.86年となっており、男性の79.04年に比べて長い。でも、「この調査は現在進行中」で、正確な答えは出ていない。
アルツハイマー病のアミロイドは脳の免疫システムの一部の可能性があり、女性は男性よりも免疫システムが強いぶん、アミロイドの蓄積量が多くてリスクも高いという説もある。また、ニューロンに含まれており、アルツハイマー病に関係するタウという別のタンパク質は、女性の脳で(男性とは)異なる広がり方をする可能性がある。
近年では、更年期障害の症状を和らげるホルモン補充療法(HRT)と認知症の関係性も頻繁に取沙汰されて、この問題を一段と複雑にしている。2021年の研究結果は、HRTで認知症のリスクが73%も下がる可能性を示している一方で、今年6月に発表された別の論文は、HRTで認知症のリスクが上がる可能性を指摘している。
「このような結果は大抵、大規模なコホート研究(対象者を長期間追跡してパターンを特定する研究)から得るものですが、本来の意図とは無関係な要素が絡んでいる可能性もあります」とグラトウィック博士。「例えば、HRTを受ける女性はもともと健康に対する意識がやや高く、積極的に医学的な検査を受ける(その結果、認知症と診断された)のかもしれません」。これが事実であれば、HRTそのものが認知症のリスクを高くするという因果関係は成立しない。このように、HRTと認知症の関係性は依然として謎に包まれているけれど、今回ウィメンズヘルスが相談した専門家の面々いわく、更年期障害の症状は引き続き自分に合った方法で管理するべき。

a woman multi tasking
Ralf Hiemisch / Getty Images

偏りすぎの負担

女性は男性よりも多くの責任(仕事の会議、子どもの送り迎え、家の整理整頓、高齢者の介護など)を課せられており、それが認知症の発症に関係しているという説もある。科学専門誌『Brain and Behavior』掲載の論文によると、女性は家事と感情労働を担う割合が多いため、重度のストレスと不安に悩まされる確率が男性の約2倍。
「日頃から脳を活発な状態にしておくのは認知症の予防になりますが、ストレス管理を怠ると、体内の炎症が増加します」とスターリング博士。「炎症は神経系にダメージを与え、脳細胞内の代謝ストレス要因を増やしてしまうことがあります」。それが原因で寝不足になると(女性は男性よりも不眠症になる確率が58%高い)、認知症のリスクが2倍になるというエビデンスも存在する。
昨年の研究では、英国に住む黒人の認知症発症率は白人に比べて22%高く、黒人と南アジア人の認知症患者は若くして亡くなることが分かった。英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン精神医学部の認知症研究員で、この研究を率いたナーヒード・ムカダム博士によると、黒人と南アジア人は認知症の危険因子となる高血圧、糖尿病、肥満の罹患率が高く、それが今回の差を生み出している可能性がある。「人種差別も要因の1つかもしれません」とムカダム博士。「その人たちに与えられる治療の機会や質、あるいは人種差別そのものによる慢性的なストレスが直接影響している可能性もあるでしょう」

close up of a digital tablet with brain x ray on screen
Teera Konakan / Getty Images

認知症のこれから

脳を認知症から守る方法は昔から変わっておらず、タバコをやめて、飲酒を最小限に抑え、栄養満点で不健康な脂質が少ない自然食品中心の食生活を送ること。スターリング博士によると、有酸素運動とストレス管理も認知症の予防に役立つ。
この先の数十年で科学的に認知症の解明が進む可能性も高い。ムカダム博士いわく最近の認知症の臨床試験には、女性がちゃんと含まれるようになってきた。また、女性の健康を推進する10年戦略に認知症を組み込んだ英国政府は、昨年夏、“認知症ムーンショット”公約の一部として、2024年までに認知症の研究資金を年間1億6000万ポンド(約290億4000万円)に倍増することを発表。この金額には、女性の発症リスクが高い理由を調べるための費用も含まれる。
あなたがいま何らかの症状に悩まされているのなら、迷わず医師に相談するべき。認知症治療薬の将来には期待が持てるし、早期に発見された場合はとくに効く可能性がある。昨年12月には、レカネマブという新薬がアルツハイマー病の初期における記憶力と思考能力の低下を27%遅らせることが判明。今年7月には、ドナネマブという別の新薬がアルツハイマー病の進行を20%以上(初期の場合は35%)遅らせることも分かった。
米国で認可され、年間2万6000ドル(約385万円)の費用がかかるレカネマブが英国で認可されるのは、早くても2025年と言われている。認可されれば、毎月の通院時に点滴で投与される。グラトウィック博士の話では、少なくとも1種類は来年にも民間の病院で処方できるようになるという。「こうした新薬は認知症治療におけるパラダイムシフトを生み出しています」
スターリング博士によると、有名人が自分の体験を語ってくれるのもありがたいこと。「それで認知症に対する国民の意識が高まり、認知症を恥とする見方が減りますからね。認知症の研究に資金が提供され、新薬が承認される可能性も高くなります」
いままさに認知症と闘っている前述の女性たちはというと? 「認知症を心から恐れながらも、強くあり続けている母を誇りに思います」と語るクロエは、英アルツハイマー協会の出版部で編集アシスタントをしている。SNSで、自分と同じ立場にいる若い女性のサポートネットワークも見つけた。
ジュードも少しずつ認知症に適応している。自分が認知症に精通し、新しいルーティンを築ければ、気持ちが落ち着くことも知った。友達と寒中水泳をしたり、毎年家族でスペインの海岸線の同じ場所に出掛けたり。短編小説を選べば読書も可能。家族と共に、認知症を受け入れながら楽しく生きる方法を見い出している。
 
※この記事は、イギリス版ウィメンズヘルスから翻訳されました。

Text: Lauren Clark Translation: Ai Igamoto
 

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